アリイの1/1シリーズ「九七式手榴弾」を実物に近づける。

細部の小さな違いは、集まると、全体のフォルムに影響を与える。細部の小さな違いを減らすことで、全体のフォルムをよくする。

 アリイのマイクロエース・コンバットシリーズは、旧LS時代から長く続いている実物大の1/1プラモデルです。手榴弾や銃剣といったアクセサリーを再現しています。ミリタリー好きの方なら一度はお世話になったことがあると思います。自分も中学生のころに製作して以来、ずっと疎遠でしたが、最近、探し物をしているときにたまたま出てきたものを開封して、ちょっと驚きました。

 コンバットシリーズNo.4。日本軍とドイツ軍の手榴弾がセットになっています。日本軍の手榴弾は九七式手榴弾(正式名称は九七式手投榴弾)です。ずいぶんとデフォルメされていると思っていたのですが、弾体などは実物とそっくりです。金型が変わったとも思えないので、自分の記憶違いでしょう。

 このように実物(左)と比べると、弾体は、ほぼ同寸・同形状のように見えます。とはいえ、弾体の蓋が厚い、被帽の形状が違うなど、一見して多少の差異もあります。実際にランナーから分離して組み立てをはじめると、細部の微妙な寸法の違いがあり、出来上がりの雰囲気が実物と離れてしまうのが惜しいところです。そこで今回は、筆者が所有する実物不活性品の九七式を参考に、実物に近づけるために修整すべきポイントをご紹介したいと思います。

※筆者が所有する九七式手投榴弾は本稿でご紹介している個体1つのみです。本体の形状は制式兵器図に定められていますが、金型による誤差や生産時期による仕様の違いなどがあります。本稿でご紹介する形状・仕様は、あくまでも一例です。

 プラモデルは1枚のランナーにまとまっています。パーツの点数も少なく、組むだけならば、ものの10分ほどで完成できるシンプルさです。樹脂パーツのほかに、安全栓の針金と紐が別についています。パーツの形状変更でおおきな修整は3点です。弾体の蓋の厚みと信管の長さを調節したうえで(1、2)、被帽の形状を修整します(3)。そのほか穴あけなどの細部の修整と塗装は本文でご紹介していきます。

 今回の修整作業に必要な工具類です。多くは100円ショップやホームセンターで揃うと思います。

  • ニッパー:パーツをランナーから外すときにつかう。
  • ヤスリ:プラスチックを削るハンドシャープナー。
  • ドリルまたはルーター:2.5ミリ径の穴あけ用。シャープナーなどで代用することも可。
  • 仕上げ用の耐水ペーパー(1000、1500、2000番の細目)
  • 定規
  • 接着剤
  • スプレー塗料(黒、銀、金):弾体および信管の塗装用。
  • 筆と塗料(赤、黒、クリア紫、白):標識類の塗装用。
  • マイナス子ネジ:撃針再現用。頭径が5ミリ程度のM3規格子ネジ。
  • 線径1ミリ針金、3ミリ径麻紐(※安全栓を交換する場合)

 最初に弾体の修整からおこないます。プラモデルの弾体は実物と比べると全高が約3ミリ高くなっています。このうち蓋の部分が肉厚で、全体のフォルムに影響を与えるので、蓋を修整します。蓋は上下のパーツを合わせるようになっています。接着して合わせてから、蓋の厚みが2ミリになるように、およそ1.5ミリほど削って薄くします。

 蓋は主に下側を削りますが、上側も少し削ると良いと思います。上側には、10枚の花びら状の彫りがありますが、実物と比べるとプラモデルは彫りが深く、エッジが立ちすぎていますので、削って少しぼやかします。ヤスリの削り傷は塗装で目立たなくなるので、仕上げに気をつかう必要はありません。蓋にある二カ所の穴は、プラモデルでは塞がっているうえに穴径が小さいので、2.5ミリ径に拡張します。

 実物(左)は蓋が隙間なくぴったり閉まっています。蓋の下側を手作業で削っていくと平行を出すのが意外と難しく、弾体と合わせたときに微妙な隙間ができます。そこでプラモデルの弾体側を穴の内側から外側に向かって少し削ると蓋がぴったりと弾体に合わさります。

 弾体のパーティングラインは底だけを消して、側面はそのまま残してかまいません。実物も鋳造時の合わせ目が残っているからです。

 次に信管です。信管本体が弾体の蓋から露出している長さは23ミリです。プラモデルは1ミリ長いので、差し込み側の下部の段差部を1ミリ削って短くします。また、撃針の挿入口も厚みがあるので、気になる方は削って薄くするとよいでしょう(被帽をつければ見えないのでそのままでも構いません)。

 この写真でランナーの外側にあるのが実物の撃針です。撃針は残念ながら形状が実物とは全く違います。ただ、被帽をつけるとデフォルメ部分は見えませんので、被帽の穴から見える撃針調整ネジを再現すると良いと思います。

 調整ネジを再現した様子です。左の実物は撃針が一番下まで下がっていますが、実際は右のプラモデルのように、被帽の穴から調整ネジが見えます。撃針の調整ネジは、今回は手許にあった真鍮のマイナスネジ(M3)をつかって再現していますが、頭径が4~5ミリであれば、プラモデル用のモールドアクセサリでも良いと思います。

 日本軍の手榴弾に特徴的な被帽です。実物は真鍮の厚み0.5ミリほどの薄い板を板金加工したものです。プラモデルでは強度を確保するため、かなり肉厚にできているうえ、全高は実物よりも2ミリ短く寸胴です。また、強度を維持する目的だと思いますが、頭頂部が外周に出っ張っており、デフォルメされています。

 全高を増やすことはできませんが、このように頭頂部の張り出し部分を削ると、ぐっと実物に近づきます。また、安全栓を通す穴が小さいので2.5ミリ径に拡張します。

 ここまできて、おおむね形状としては完成しました。塗装にうつりましょう。実物は、弾体が鉄、信管部は真鍮でできています。このため、塗装は、弾体を黒、信管部を金に着色します。

 弾体は黒の前に銀で下地を塗装します。銀の上から黒を塗装し、1500~2000番のペーパーやスポンジなどでこすってエッジに下地色を出すと、このように金属感が出ます。黒の塗料はできれば艶消しをつかうのが良いと思います。

 信管部も金で塗装したあとにペーパーがけで下地が少し出るようにするなどして汚れや酸化を再現すると良いと思います。真鍮は酸化で変色しやすいため、部隊で支給後に兵士が携行している間に真鍮本来の輝きは消えているはずだからです。

 プラモデルの仕様書では、塗装は弾体の黒と信管部の金だけですが、日本軍は弾薬に各種の標識を示す塗色や文字の書き入れをおこなっていました。以下では、それらの標識類を再現していきます。その前に、安全栓についてみてみましょう。

 安全栓はプラモデルの付属品そのままでも構いませんが、若干の形状違いがあります。左から実物、プラモデルの付属品、右が針金と麻紐で再現したものです。プラモデルの付属品は線径がすこし細いのと、全長が少し長い以外はよくできています。今回は実物を参考に線径1ミリの針金と麻紐で再現した右端のものに交換し、被帽と信管に装着したうえで、標識類の再現をします。

 標識類の再現は、安全栓を含めてすべてを組んだうえで筆ぬりでおこないます。実物は、弾体に炸薬を充填し、信管を装着した完成弾薬としたうえで、標識類を塗色し、防湿対策の密封(ワニス塗布)もおこなうからです。

 まず、被帽には紫色塗料を塗ります。これは前モデルで在庫が併用される九一式から曳火秒数が短くなっていることを示すものです。紫色塗料はクリア系の紫になります。今回は赤と青のクリアを混ぜて再現しています。塗り方はラフでかまいません。

 紫色塗料が乾くのを待つ間に、弾体の底の再現をおこないます。実物の九七式手榴弾には、紙製でニスを塗った曳火秒数の標識が貼り付けられていました。印刷した紙を直径28ミリで切り出して、弾体の底に貼り付けます。紙製標識は剥がれやすく、実際に実物で紙製標識が残っているものはほとんどありません。紙の劣化もありますが、そもそも弾薬支給後の携行時に紙が剥がれてしまうのではないかと思います。今回はいったん標識を貼ってから、こすり剥がすことで、紙が剥がれてしまった状態を再現します。

 こすり剥がした紙製標識の周囲には、填薬箇所及び填薬年月の標識を白色塗料で書きいれます。「(ト)」が填薬箇所、「17.3」が填薬年月で、今回は太平洋戦争がはじまって四ヶ月後の1942年(昭和17年)2月に東京兵器支廠で製造されたものを再現しています。填薬標識は、弾薬取扱細則の附表第三に定められています。本稿で再現した以外の製造所・年月については、アジア歴史資料センター「C14011062000」附表第三を参考にしてください。

 紫色塗料が乾いたら、弾体の蓋に、炸薬入りの実弾であることを示す赤色塗料を塗ります。赤色塗料は赤に少し黒を混ぜた色です。市販のレプリカ品にあるように、蓋全体をきっちりきれいに塗る必要はありません。実物はかなりラフな塗り方です。また、赤色塗料は、炸薬を充填した後の完成弾薬として、信管を装着した上で塗りますので、信管や被帽、安全栓の紐に赤色塗料が付着してもかまいません。

 完成したプラモデル(左)を実物(右)と比較してみると、かなり実物に近い雰囲気が出ていることがわかると思います。大げさではなく、完成後に実物を手にとろうとして、一瞬、プラモデルに手が伸びてしまったほどです。

 左から実物不活性品、今回製作したアリイのプラモデル、米軍が対日上陸戦に備えて訓練用に製作した模型です。プラモデルのほうが、米軍の模型よりもずっと実物に近い外観です(米軍模型の安全栓は欠品していたのでアリイのものをつけています)。

 アリイのプラモデルは、全体的によくできた製品ですが、細部の小さな違いは、集まると、全体のフォルムにずいぶんと影響を与えます。細部の小さな違いを減らすことで、全体のフォルムをよくすることが可能です。今回ご紹介した修整を施すことで、実物に遜色のない外観を再現することが可能です。ぜひチャレンジしてみてください。

 追記です。プラモデルの被帽は、左右を貼り合わせますが、信管に挿し込むと容易に左右の貼り合わせが剥がれ、天頂部のパーティングラインが目立ってしまいます。そこで、実物と同様に、安全栓の脱落防止のため、このように紐をかたくゆわくと、左右の合わせ目が目立たなくなります。

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