H鋼を破壊するのに必要な爆薬量と設置方法

爆薬を見たことも触ったこともないのに例示物をつくるのが変人といわれる所為です。

 一昨日に浅草で開催されたサムズミリタリヤさん主催のビクトリーショーで、WW2米軍工兵・衛生資器材の展示をおこないました。

 今回の展示で、自分は主に破壊器材(爆薬)を担当しましたが、観覧いただいた方に、より身近に感じてもらえるような2つの展示をおこないました。1つは爆薬の起爆には雷管が必要であること、もう1つは爆薬量の計算と設置方法についてです。ともに解説のパネルと実物大模型による例示物を作成しました。

 爆薬を取り扱う仕事を経験している方にとって、この2点は基本というか常識です。しかし、以外と一般には知られていないというか、仮に知識があっても具体的なイメージがつかみづらいのではないかと思います(自分自身はそうでした)。

 そこで、説明用のパネルとともに模型による例示物をあわせて展示することで、視覚的に理解しやすいような内容にしました。おかげさまで見学者の方から「今までモヤモヤしていた部分が解消できました」というお声もいただきました。狙いどおりです♪

 以下では、爆薬量の計算と設置方法について、パネルの内容と作成した模型をご紹介します。

 こちらが当日のブースでも展示したパネルの内容です。米軍の破壊爆薬教範(1945年版「FM5-25」)にある計算式を用いて、H鋼の破壊に必要な爆薬量を計算し、それに見合うコンポジション爆薬を設置するというものです。

 展示パネルには「求めてみましょう」と計算を促していますが、特に解答を用意していませんでしたので、ここで答えあわせをしたいと思います。

 計算式は、H鋼の質量を計算し、破壊するにあたって必要な爆薬量を係数「3/8」を掛けて求めます。質量の計算単位はインチで、爆薬量の単位はTNT換算のポンドです。

 まずはH鋼の質量を求めます。下記の計算式【1】~【4】はパネルの水色の番号に該当します。

鋼材質量を求める計算式:2×【1】鉄骨の上辺下辺の幅(70mm)×【2】同厚さ(7mm)+【3】鉄骨中央柱の高さ(150mm)×【4】同厚さ(5mm)

 計算がしやすいように、すべてインチになおして計算してみます。

ミリをインチに換算した計算式:2×【1】2.76×【2】0.276+【3】5.91×【4】0.197=2.689平方インチ

 2.689に係数3/8を掛けると、破壊に必要な爆薬量はほぼ1ポンドぴったりです。ちょうどTNTハーフポンド爆薬2個分です。WW2当時のコンポジション爆薬(C-2)は、重量換算でTNTの約1.3倍の威力がありますので、必要な爆薬量は0.77ポンド、およそ350グラムということになります。

 設置方法は、教範に掲載されているように、当て板で対象面に密着させ、麻紐で縛着する形を再現しました。形状やつかう爆薬量を調節しやすくしたのがコンポジション爆薬の優れた点ですね。

 こちらが教範の設置例を再現した模型です。H鋼は鋼材屋さんから切り出してもらいました。コンポジション爆薬は色・質感が近い紙粘土をつかいました。紙粘土は、比重が爆薬と異なります。そこで模型では、概ねコンポジション爆薬350グラム分に相当する体積である280立方センチを目安に製作しています。

 起爆は電気式を再現し、電気式雷管に見立てたコード付きの銅管を挿入しています。

 今回の模型に近い実爆を経験した有資格者から爆薬(=紙粘土)の量が少し多くない?と指摘されましたが、現代のコンポジション爆薬はより少ない量でも破壊できるように改良されているのではないかと思います。「 こんなものは自衛隊の教材以外にないのでは?」という声も聞きました。自分にとっては褒め言葉です。

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