九七式曲射歩兵砲弾のリペイント

米軍の81mmを再生したので異国の従兄弟も塗装してあげた。

 トップの写真は、むかし81mm迫撃砲の無可動を輸入しようと企んでいたときに入手した日本軍の81mm迫撃砲の榴弾です。弾体だけで信管はありません。サビサビです。この写真の日付を見ると2006年なので、入手はそれよりも前です。もう15年以上前ですね。

 この錆弾を手に入れたあと、しばらくして81mmは諦めて60mmにシフトしたので、この砲弾もしばらくほったらかしでした。数年前にサビを落として多少の修復はしていましたが、今回、米軍の81mmを再生したのを機会に“従兄弟”でおそろいの写真をとってあげようと、きれいにしてあげることにしました。“従兄弟”と表現したのは、ともにフランスのストークブラン迫撃砲をモデルに、ほぼ同じ型・同じ口径の砲弾だからです(→両者の比較については、こちらの記事「“日米従兄弟”81mm迫撃砲弾」をご参照ください)。

 サビを落として、表面の凸凹をある程度まで修整したうえで、弾体の塗色である黒にリペイントした状態です。本来は信管座と尾翼は分離しますが、この個体は残念ながら固着して外れません。また、信管は入手困難ですから、今回はこの状態で弾体のマーキングのみを再現していくことにします。

 ところで日本軍の81mm砲弾は数種類あります。もっともメジャーなのは九八式と一〇〇式ですが、両者は形状がほぼ同じで、信管座を付けると外観上の判別は困難です。米軍の資料では、わずかに弾体長と尾翼の羽根のサイズが違うようです。現物を計測した結果、自分が入手したのは九八式榴弾であることがわかりましたので、今回は九七式曲射歩兵砲用の九八式榴弾として再生していくことにします。弾体のマーキングについては、1940年に改正された弾薬取扱細則を参考に再現します(→アジア歴史資料センター Ref. C14011063000

 弾薬取扱細則に掲載されている規定標識を示すイラストです。上から填薬標識、弾種標識、制式全備弾量公差標識、填薬年月、填薬箇所標識です。この裏側には弾丸名称標識が入ります。それぞれの標識が示す内容については後ほどご紹介します。

 まずは文字の標識からつくっていきます。文字はカッティングプロッタで切り抜いたマスキングシートの上からペンキで再現します。標識の文字の大きさについては弾薬取扱細則に規定がありますので、それに合致するようにデータを作成します。

 弾丸名称標識は、弾薬の形状が同一で混同防止を目的に型式を示す標識です。今回再現する九七式曲射歩兵砲用の九八式榴弾は、このイラストにあるように二行にわたり「九七曲歩 九八式」の文字が記載されます。この文字は、4年前に補給用弾薬箱をつくったときに難儀したステンシルです(→こちらの記事「南方戦線向け九二式重機関銃用の木製弾薬箱」をご覧ください)。まずは近い字体のフォントで文字を出して(左)、それを太字に変換します(中央)。そのあとはひたすら修整していきます(右)。過去に海外で出品されたオークション品を参考に、「とめ」を削除して字体を切り貼りするなど調整して出力します。

 各標識のデータを作成し、カッティングマシンでシートを切り抜く前に、プリントアウトしたものをあてて位置や大きさを確認します。この写真では、弾体のうえに貼り付けてあるのが弾丸名称標識、その横にあるのがそのほかの標識になります。日本軍は縦書きなので、米軍の横書きのように弾体にあわせて曲率を調整する必要はありません。この標識は、お互いを表裏の位置に記載します。

 カッティングプロッタで切り抜いたマスキングシートを貼り付けた状態です。標識の文字は白のペンキで再現します。このシートの上からペンキを塗ります。後述しますが、この部分は一回やり直しをしています。

 復原した塗装です。信管座の赤色は填薬弾であることを示し、黄色の帯は榴弾であることを示します。

 「+-」は制式全備弾量公差標識です。制式の重量に比べて完成品の誤差が正負0.5%以内であることを示しています。「16.11」は填薬年月で1941年11月に製造されたものを示します。「(ト)」は填薬箇所名です。東京陸軍兵器補給廠を意味します。

 弾丸名称標識です。九七式曲射歩兵砲用の九八式榴弾であることを示します。

 弾薬取扱細則にある文字の大きさは弾径の0.3倍と定められています。この榴弾は81ミリですから文字の大きさは約24ミリということになります。しかし、九七式曲射歩兵砲用の標識については、別途幅14ミリの指定があることを、@tamaya8901さんから資料をご恵送いただきご教示いただきました。そこでインターネット上にある現存品も参考に、この部分の標識は一度つくりなおしをしています。

 再生した米軍81mm榴弾M43A1とならべて写真を撮ったものです。“従兄弟”揃いでの撮影という当初の目的は達成できました。

 九八式榴弾は信管がないため、完全な再現はできませんが、15年前に入手した当時のサビの塊だった状態からすれば見違える姿になりました。皆さんの手許にも同じような“錆弾”があるならばリペイントで再生させてみてはいかがでしょうか?

先頭に戻る