日本軍の爆薬と火工品の再現【起爆編】

前回は日本軍の制式爆薬と再現したダミーについてご紹介しました。今回は、爆薬を起爆するために必要な火工品をご紹介するとともに、ダミーをつかって非電気式起爆を再現します。

 爆薬の起爆には、非電気式起爆と電気式起爆の二通りがあります。

 このイラストは日本軍の『爆破教範』に掲載されている非電気式起爆(左)と電気式起爆(右)の構成図です。

 非電気式起爆は、物理的な着火によって雷管を起爆し、爆薬を爆轟させる方式です。マッチや点火具によって導火線(日本軍では導火索と呼びます)に着火し、延焼した火が雷管に到達すると起爆します。器材が少なくても確実に起爆が可能な方式として、各国ともに第一線が装備する破壊器材となっています。

 たいする電気式起爆は、通電によって起爆する電気式雷管を使用し、爆薬を爆轟させる方式です。点火機や電線、導通試験器といった器材が必要ですが、爆薬の構成や起爆のタイミングを調整しやすい利点があります。非電気式起爆がときに歩兵や騎兵など工兵以外の兵科も作業担当するのに対して、電気式起爆は工兵が所管します。今回は非電気式起爆を再現しました。

 再現した非電気式起爆の一式です。いずれも第二次世界大戦前に制式化され、連合軍との戦いにつかわれた爆薬と火工品のダミーになります。日本軍が戦場においてつかった火工品は民生品や押収品も多く多種多様ですが、今回は陸軍の制式兵器で再現しています。

 構成はシンプルです。この写真の右側、一番上から順に一式点火具、一式導火索、九七式導火雷管です。これらを相互に接続し、雷管を爆薬に装着すると起爆する準備が整います。起爆準備についてはのちほどご紹介することとして、まずは再現したダミーをご紹介します。

 一式点火具です。『爆破教範』に掲載のイラスト(上)と、連合軍の押収品の写真(下)です。一式点火具は、全長8.2センチ、直径8.1ミリ(※教範の8.1cmの記載は誤記と思われます)の真鍮製の筒のなかに摩擦発火の装置が詰められており、引紐を引っ張ることで接続した導火索に着火するものです。パーティークラッカーの仕組みと同じです。マッチよりも確実に着火ができます。

 再現したダミーです。真鍮製の外筒に樹脂製の被筒と引環と引紐を再現しています。おおむね実物に近い外観になっていると思います。真鍮製の外筒に巻いてある鉛箔(アルミ箔で代用)と、引紐の固定は『爆破教範』の記述を参考にしています。鉛箔は湿気防止です。教範には導火索に装着する際には木片などをつかってよく剥ぎ取るようにという指示がされています。引紐は不意の事故を防止するためのもので、折り返して被筒に防湿紙製の安全帯で固定されている状態で携行・保管されていました。

 一式導火索です。一式導火索は、綿糸・麻糸・耐水紙・防湿剤で火薬を被覆した直径6.5ミリのコード状の導火線です。導火速度は毎秒約1センチです。このイラストは、連合軍が押収品を分析した報告書に掲載されているものです。

 再現したダミーです。日本軍の『爆破教範』には、外観の被覆色について記載がないため、連合軍の報告書にある「WHITE」で再現しています。ろう引きのコットンコードに樹脂製の芯材を通しています。直径は実物とほぼ同じです。

 日本軍の『爆破教範』では導火索の保管について、吸湿を防ぐために切断面にはゴム綿帯を巻き、円形に束ねたうえで缶または箱に密閉保管するようにと指示があります。残念ながら、導火索を収納する缶や箱についての資料は未見のため、詳細がわからず、今回は再現ができていません。

 九七式導火雷管です。このイラストは、上が日本軍の『爆破教範』に掲載のもので、下が連合軍の押収品報告書に掲載のものです。長さ7センチ、直径8.1ミリの真鍮製の筒内に、起爆薬が詰められています。実物を写真で紹介する資料は管見の限りありませんが、シンプルですので、外観の再現はそれほど難しくありません。

 再現したダミーです。九七式導火雷管は、導火索を挿入する筒口が若干ひろがっています。おそらく、導火索を挿入しやすくするためでしょう。ダミーでは切断した真鍮パイプを工具で拡げています。実物は先端が閉塞されていますがダミーでは閉塞していません。

 日本軍の非電気式起爆は、ご紹介した三点で再現ができます。以下では『爆破教範』にもとづき、ダミーをつかって起爆準備を再現してみます。

 これは1941年版の『爆破教範』に掲載されている教育カリキュラムです。導火索の接続からマッチでの点火、雷管と爆薬の起爆、点火管と導爆索、集団装薬による構成など、計7回の講習(習会)で、期間としてはのべ4日間にわたり、実爆をともなう実習が構成されています。以下の再現は、点火管、導火索、導火雷管をつかい、爆薬は方形黄色薬の薬包6個分、600グラムを梱包したものになります。この教育カリキュラムではおおむね第6習会に相当する内容です。 

 最初に、点火管と導火索、導火雷管を接続します。導火索を点火管と雷管に挿入し、導火索が抜けないように挿入部は工具で締めつけます。締めつける工具は、右のイラストに掲載されている導火索鋏ですが、今回は米軍の雷管締付具で代用しています。ついで、接続部から湿気の浸入を防ぐために、それぞれの端部2センチをゴム綿帯と麻糸をつかって縛着します。 

 ダミーをつかって接続を再現したものです。点火管は鉛箔を落とし、導火索を挿入して工具で締めつけた後にゴム面帯と麻糸で縛着します。雷管も同様です。ゴム綿帯の詳細は不明ですが、おそらく薄いテープ状のゴムであったと思われます。ゴムの色はわかりません。現代のゴムは製造工程の加硫段階でカーボンが添加されているため、写真にあるように色は黒です。日本軍のゴム綿帯は、カーボンが添加されていない肌色だったのではないかと考えます。

 日本軍の爆薬には、あらかじめ雷管を挿入する穿孔があけられていますので、導火索と接続した雷管を爆薬の穿孔に挿入すると起爆が可能になります。ただ、このように雷管を挿入しただけの状態では、雷管は容易に脱落してしまい起爆が失敗します。そこで、爆薬に挿入する雷管は、しっかりと縛着しなくてはいけません。

 『爆薬教範』で紹介されている雷管の縛着方法(左)と爆薬の梱包要領(右)です。爆薬と雷管の縛着は、このように麻糸をつかって雷管を爆薬に縛り付けて、雷管が脱落するのを防ぎます。この縛着要領は、米軍でも同様です。複数の爆薬を束ねる場合(集団装薬)は、麻糸をつかって縛ったうえで、必要に応じて資器材をつかって梱包が解けないようにします。今回は装薬量が少ないため、麻糸での梱包で再現します。

 ダミーをつかって再現した様子です。九七式方形黄色薬の薬包6個、合計600グラムの集団装薬を、点火管と導火索、導火雷管によって非電気式起爆を準備した状態になります。導火索の長さは約60センチですので、点火管の引紐を引くと、およそ60秒後に起爆する構成となります。

 前回と今回の記事でご紹介したダミー爆薬と火工品は、いずれも『爆破教範』で制式兵器として紹介されているものです。これら爆薬や火工品は、工兵の破壊作業という本来の目的だけでなく、地雷や急造爆弾への転用が可能です。とりわけ第二次世界大戦では、連合軍の猛攻による補給の途絶により、爆薬を転用した急造兵器による戦いを余儀なくされています。次回の記事では、ダミー爆薬と火工品をつかって、それら急造兵器を再現してみたいと思います。

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