ほほえみデブのドーナツ効果

ダイエットは人間の摂理に反しています。だからこそセルフコントロールが必要です。カロリーコントロールと運動がそれを可能にします。

 映画「フルメタルジャケット」(→Amazon.co.jp リンク)では、主人公が面倒をみることになった肥満の新兵(邦訳版で“ほほえみデブ”、英語版は“Gomer Pyle”がニックネーム)がドーナツを隠し持っていることを鬼教官にバレてしまうエピソードがあります。

 映画では、このドーナツは、“ほほえみデブ”が食堂から失敬?してきた筋書きになっています。当時の米海兵隊の新兵教育でどのような食事が提供されていたか筆者は不見識で知りませんが、このような甘味品は給食以外にも入手を可能にしていることが多いようです。各国ともに軍隊には日用品や軽食の購入と喫食が可能な売店(日本は酒保、米軍はPX等と呼ぶ)がありました。

 さて、本稿で注目したいのは“ほほえみデブ”のドーナツの入手先…ではなく、彼の体重(体型)維持に、このドーナツはどのような効果があったのか、ということです。以下では、この点について、カロリーの視点で考えてみたいと思います。

 人間の消費カロリーは、年齢や性別、本人の資質に依存する部分もありますが、おおむね体重と運動量に比例します。映画における“ほほえみデブ”の設定はつまびらかではありませんが、鬼教官役である故R・リー・アーメイ氏が身長180センチということですので、本稿では、仮に身長185センチで体重は100キログラムとしましょう。これは現代のWHO基準で「肥満2度」にぎりぎり満たない水準です。このときの“ほほえみデブ”の基礎代謝量は約2,213kcal(キロカロリー)になります(男性18歳で計算)。

基礎代謝量や運動による消費カロリーの計算は、こちらのカシオ計算機が運営するサイト「Ke!+san」が便利です。

https://keisan.casio.jp/

 基礎代謝量とは、寝ていても必ず消費するエネルギー量です。実際には、人間の生活にはなんらかの身体活動を伴いますから、運動量に応じて消費するエネルギー量は変化します。ここでは、1日の運動(教練内容)を次のように仮定して、“ほほえみデブ”の消費カロリーを推定してみます。

  • 体操(30分)184kcal
  • ランニング(30分、4km)436kcal
  • 自重筋トレ(30分)184kcal
  • ドリル=執銃動作など歩行を含む(180分)1,050kcal

 合計1,854kcalが運動消費カロリーです。基礎代謝量にプラスすると、“ほほえみデブ”が1日で消費するカロリーが算出できます。4,067kcalです。

 1947年に米軍が定めた1日の食事基準は3,600kcalでした。仮に食堂で配膳される食事がこの基準どおりだったとすると、“ほほえみデブ”は467kcalが消費超過になります。すなわち、入営したら、彼は毎日ダイエットを強いられるわけです。

 ダイエット効果についてみてみましょう。ダイエットでは、1日のカロリー収支がマイナスになることで、脂肪が燃焼して減量につながります。脂肪1キログラムを消費するのに必要なカロリーは約7,200kcalです。毎日のカロリー収支のマイナス分を脂肪に換算することで、具体的なダイエット効果を計算することが可能になります。以下では計算を単純化するために、代謝量は最初から変わらないものとして、脂肪1キログラムのカロリーを消費超過分のカロリーで割るかたちで求めたいと思います(※)。

※正確には、ダイエットによる減量では、脂肪とともに筋肉も減少します。また、減量は代謝量も減らしますから、仮に摂取カロリーがかわらなければダイエット効果は緩やかに弱まっていきます。

 前述のとおり、脂肪1キログラムを消費するのに必要なカロリーは約7,200kcalです。毎日467kcalのダイエットを続けたとすると、1カ月で14,010kcalの消費超過で約2キログラムのダイエットが可能になります。米海兵隊における新兵教育は13週間=約3カ月ですから、“ほほえみデブ”は入営で約6キログラムのダイエットができたはずです。ドーナツを食べなければ。

 では、食堂での配膳だけではお腹が空いて、隠れて毎日ドーナツを食べていたとすると、ダイエット効果はどのように変化するでしょうか?

 ドーナツのカロリーは、おおよそ450kcalとみてよいでしょう。467kcal分のダイエット効果は、ドーナツ1個の摂取カロリー450kcalによって、ほぼ相殺されてしまいます。1日17kcalの消費カロリー超過によるダイエット効果は、3カ月で脂肪200グラム程度にしか過ぎません。

 鬼教官にドーナツを隠し持っているのがバレてからは、ドーナツを食べることができなくなり、ダイエット効果が出たと考えられます。仮に入営して1カ月目までは毎日ドーナツを食べていて、残り2カ月の教育期間では“ドーナツ断食”によるダイエット効果が得られたと仮定します。計算を単純化するため、ここでも日割りで計算すると、新兵教育期間の消費カロリー超過分は28,530kcal、脂肪に換算すると約4キログラムです。

 ちなみに、減量による代謝量の低下を考慮して計算した場合は、ダイエット効果も減ります。90日後の減量効果は約3.4キログラムです。

 映画のなかで“ほほえみデブ”は、新兵教育の期間中、ほとんど体型は変わらなかったようにみえます。たしかに身長185センチ、体重100キログラムの仮定だと、4キログラムの減量は見た目に影響はないかもしれません。しかし、実際には、脂肪が減ると同時に、体練によって筋肉が増えます。筋肉は脂肪よりも比重が2割ほど大きいので、実際の体重の変化よりも見た目はスマートになります。

* * *

 ところで、世界にはいまも飢餓に苦しむ人々がいます。しかし、世界平均でみた場合には、カロリーベースでの食料生産性は劇的に向上し、ここ半世紀ほどで摂取できるカロリーが大幅に増えたことで人口増加に結実しています。飢餓はグローバル経済と国内政治問題に起因する配分の問題ともいえます。そして、多くの国で人が生活するうえで消費するカロリーは減りました。人間にかわって作業が可能な機械のおかげです。
 
 しかし、人間はもともと余分なエネルギーを脂肪に蓄えて不慮の事態(飢餓)に備えてきました。この身体の消化器系とエネルギー消費の仕組みは数万年前から変わりません。社会環境がカロリーを昔ほど必要としなくなったにもかかわらず、人間の身体は変わっていませんから、同じ食事量でも太りますし、現代の食事は高カロリーなのでなおさらです。これは先進国では肥満率の上昇として顕著にあらわれています。

 ダイエットに挑戦しても成功せずに悩んでいる人は少なくありませんが、それは、ある意味ではあたり前と言えます。極論をいえば、ダイエットは人間の摂理に反してるとも言えるからです。ですから、なんらかのセルフコントロールが必要になります。

 近年は、糖質を抑えるダイエットが流行しています。糖質を抜くだけで、あとは何を食べても構わない、カロリーコントロールのように計算をしなくてよい、というシンプルさが人気の秘訣のようです。しかし、ダイエットの方法としては、逆に難易度が高いと思います。というのも、ダイエットのようにセルフコントロールが必要なことには、日々の正確な状況把握による振り返りが不可欠ですが、糖質ではそれが難しいからです。

 加工品では、カロリーが食品表示法に定める栄養成分の表示義務になっているのに対して、糖質は表示義務の対象外です。表示義務の対象である炭水化物をそのまま糖質と読み替えることも可能ですが、消費するカロリーとの対比はできません。このため、糖質では、自身のダイエット効果を日々の数値として把握することができません。

 これにたいしてカロリーは明確な数値で把握することができます。原則として加工品のみを扱うコンビニエンスストアでは、すべての商品にカロリー表示がありますし、大手チェーンのレストランであれば、メニューにカロリーが表示されていることがほとんどです。また、自分でつくる食事も、食材と調味料を含めたカロリーを計算するのはそれほど困難ではありません。“ほほえみデブ”を例に計算したとおり、1日に消費するカロリーも自身の基礎代謝と運動量で計算することができますから、カロリーであれば、摂取と消費の両方を計算して、1日あたりの収支を数値で明らかにすることができます。

食材の栄養成分を検索して計算できるサイト「カロリーSlism」をご紹介します。食材や加工品、大手チェーン店のメニューに対応しており、摂取カロリーだけでなく、筋肉に必要なたんぱく質も手軽に計算することができます。

https://calorie.slism.jp/

 常に自身のカロリー収支を把握しているメリットは「見える化」と「帳尻あわせ」です。カロリーの収支が数値として見えることはモチベーション維持につながります。なぜなら、グラム単位での脂肪の増減を意識することができるからです。これが「見える化」です。そして、仮に食べ過ぎや飲み過ぎでカロリー収支がプラス(摂取超過)になったとしても、翌日、もしくは1週間で収支をマイナス(消費超過)にすることで、帳尻をあわせることができます。これが「帳尻あわせ」です。カロリーベースであれば、そのようなダイエットが可能になります。

 食事で摂取するカロリーの大半は糖質と脂質です。糖質ダイエットの効果の大部分は、結局はカロリーコントロールです。ところが、カロリーコントロールでは、カロリー収支さえマイナスにすれば、糖質制限では厳禁の甘いお菓子もお酒も我慢する必要はありません。筆者は、朝食は必ずシュークリームなどの甘いものを食べ、夕食時には毎日2リットル近くビールを飲む生活を続けていますが体型を維持しています(身長170センチ、体重62キログラム、体脂肪率14%、ジーンズのサイズは28インチです)。日々の自身の努力が見えにくい糖質よりも、カロリーで日々を振り返りできるカロリーのほうが、ダイエットのモチベーション維持につながり、ダイエットを成功に導くと考えます。

 最後に、ダイエットは、カロリー収支をマイナスにして脂肪を燃焼することが基本ですが、リバウンドを防ぐには、必ず運動をあわせておこなう必要があります。大雑把ですが、筆者自身の経験からダイエットにおけるカロリーコントロールと運動の内訳を割合として示すならば、カロリーコントロールが7、運動が3です。ダイエット効果の多くはカロリーコントロールに依存します。しかし、運動を伴わないダイエットは、リバウンドを防ぐことが難しく、成功させることは困難と考えます。運動は、代謝を増やしてカロリーを消費するだけでなく、筋肉を増やすことで引き締まった身体づくりにも必要です。筋肉を増やすには、筋トレとともに、良質なたんぱく質の摂取が必要です。機会があれば、カロリーコントロールと運動、筋トレとたんぱく質の摂取についてもご紹介したいと思います。

本稿でご紹介した映画「フルメタル・ジャケット」は、アマゾンプライムビデオにラインナップされています。年会費も手頃でオススメです。30日間無料のトライアルもできますので、興味のある方はぜひ。

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