けっきょく背負子が万能だったわけ。

WW2米軍は1944年にパックボードを歩兵向けに本格導入しました。戦時において直面した装備品の課題解決だと思います。

 日本語で背負子と呼ばれる荷負具です。米軍ではパックボード(PACKBOARD)という名称です。需品部の備品カタログには、制式化された2種類のパックボードが掲載されています。

 パックボードの現物です。右がコレクターの間で“ユーコン”タイプと呼ばれる旧型です。正式な名称は「PACKBOARD」(連邦ストックナンバー:74-P-25)です。左が1944年に採用された新型です。正式な名称は「PACKBOARD, PLYWOOD」(同74-P-27-20)です。

 旧型は木製フレームにキャンバスを張った構造で、両側の通し穴に通したロープで荷物を縛着します。これに対して、新型は合板製の軽量化した一体型フレームにキャンバスが張られた構造で、両側からロープで荷物を縛着する方式は踏襲されていますが、付属のアタッチメントやハーネスなどを使用することで、より機能的に使用することができるようになっています。

 新型パックボードの付属品です。左から時計まわりに、肩パッド、アタッチメント(戦後のWW2同型品)、クイック・リリース・ストラップです。肩パッドはコットン製で、左右のベルトにつけて肩への負担を和らげます。アタッチメントは金属製です。荷受け面の穴に挿し込むことで、重量物を下支えする役割を果たします。最大4個を挿し込むことができます。クリック・リリース・ストラップは、コットン製のストラップに金属製の留め金具がついたもので、ワンタッチで縛着を解くものです。

 1945年発行の機関銃教範で紹介されている新型パックボードの使用方法です。ブローニングM1919機関銃を、アタッチメントをとりつけたパックボードにクイック・リリース・ストラップで縛りつけます。機関銃には三脚(Mount, Tripod)と接続具(Pntle)、射界制御具(Elevating and Traversing Mechanism)がついたままです。2本のストラップ金具を解けば、銃架の脚を開くだけで、すぐに射撃体勢へ移行できます。

 教範に掲載のパックボード使用例を再現してみました。WW2米軍では、兵士の一人あたり個人装備を除く携行品の重量の目安を、おおむね約20kg前後に定めていたと思われます。後述のように、それまでは三脚類と銃をわけて携行していた軽機関銃を、一式で兵士一人が背負うように改めると、パックボードを除く重量が49.4 LBS(22.2kg)、パックボードを含めると54.4 LBS(24.7kg)となります。これは携行重量の目安を超過しています。

 ところで、WW2米陸軍の歩兵連隊にパックボードが標準の部隊装備品として定められたのは、1944年2月制定のTO/E(編成装備規定)からです。それまでは旧型の“ユーコン”タイプも含めて、パックボードに該当する備品は標準としてはありませんでした。これは歩兵の部隊運用と装備に関する方針変化を示唆しています。以下ではライフル中隊火器小隊にある軽機関銃分隊を例に、この点を考えてみたいと思います。

 リエナクトメントグループ@100thInfantryDivisionがfecebookで紹介している軽機関銃分隊の装備携行例です。出所はフォートベニング歩兵学校でおこなわれた試験報告とのことです。1944年5月は、すでに新型パックボードが歩兵連隊に配備されるようにTO/Eが変更された後になりますが、この写真は、従来の分隊編成と装備携行例を再現しています。

 左から分隊長(a)、射手(b)、助手(c)、弾薬手(d)です。弾薬手は2名ですから、分隊は計5名で編成されます。射手は三脚を、助手は保護ケースに入った銃を、ともに肩に載せています。

 射手と助手が携行する三脚類と銃を再現したものです。射手が持つ三脚は、射角制御具がキャンバス製の袋状の入れ物に入った状態です。銃はキャンバス製の保護ケースに、接続具をつけたまま収納します。重量は三脚類が16.7 LBS(約7.5kg)、銃が32.7 LBS(約14.8kg)です。右下のハーネスで対になったパッドは、肩への負担を和らげるために使用する肩あてです。首からかけて、パッドを左右の肩に載せるようにして、その上に三脚類や銃をのせて担ぎます。

 パックボードが採用されるまでは、このような肩あてをつかって手持ちしたり、専用の携行具がつかわれるなどしていました。例えば、81ミリ迫撃砲では、脚・砲身・床板にわけて携行しますが、床板と砲身にはハーネス状の専用の携行具があります。

 総力戦は、生産と補給をいかに効率化するか、兵士の損失をいかに防ぐかの戦いです。戦争の本格化に伴い、汎用性があるパックボードは、専用の携行具を廃止して代替することが可能です。そして、歩行時のバランスが優れている背負子特有の利点は、兵士の事故防止につながります。生産と補給の効率化と兵士の損失軽減が、パックボード採用の背景にあったのではないかと考えます。

 欧州戦線で撮影された写真です。背嚢を背負った米軍兵士が徒歩行軍しています。パックボードを背負うと、従来の背嚢を背負うことができません。従来の歩兵戦術では、野営生活に必要な用品すべてを背嚢で携行する長距離徒歩行軍が前提でした。車両の活用が本格化するにつれ、身の回りの用品は必要最低限で武器弾薬を手に緊急展開する戦いが主たる様相になります。推測になりますが、そのような戦術戦法の変化も、パックボードの全面導入に反映されているのかもしれません。

 最後に、新型パックボードとクイック・リリース・ストラップの使い方をご紹介します。

  1. パックボードの側面の穴からストラップを背面に通します。
  2. つぎに、フック側でストラップの長さを調節します。ストラップはきつめに調整します。
  3. フックをバックルに引っ掛けます。
  4. バックルを反対側に倒すと、テンションがかかり、ストラップが締まります。

 クイック・リリース・ストラップは、戦後もほぼ同型で踏襲されていますが、若干の改良がなされています。写真で上のストラップがWW2モデル、下のストラップが1960年代に製造された戦後モデルです。戦後モデルはバックルの先に紐がつくようになっているほか、ストラップの長さも延長されています。

先頭に戻る