ガスマスクと入組品 #2

ガスマスク・バッグの重量は、おおよそレンガ一個分です。

 前回の記事にひきつづき、WW2米軍歩兵の化学防護装備についてです。本稿では、防毒面とともに携行が定められている諸器材(収容嚢への入組品)についてご紹介します。あわせて、それら入組品を含む重量についても実測し、リエナクトメントにおける再現の参考にしたいと思います。

 防毒面とともに携行が定められている化学防護器材は、戦争中に器材の改良や入組品の入れ替わりなどがありました。

 1944年4月発行の化学防護諸器材技術教範(TM 3-290)に示されているイラスト図です。ここで示されているのは、旧型の吸収缶をつかうサービス・マスクとともに携行する諸器材です。以下の器材を入組品として収容嚢で防毒面とともに携行することとしています。

  • PROTECTIVE OINTMENT #軟膏
  • ADHESIVE PLASTER #粘着布
  • EYE SHIELDS #眼帯
  • PROTECTIVE COVERS #防護合羽(2枚)

 軟膏は、露出した皮膚に付着する持久ガスによる水疱を予防・軽減するためのものです。粘着布は、テープ状のもので、防毒面の各所の密封や補修に使用します。眼帯は、ビニル製の簡易ゴーグルで、眼の保護につかいます。防護合羽は、全身を覆うビニル製の合羽で、頭からかぶってガス攻撃から身を守ります。

 軟膏、眼帯、防護合羽は、いずれも持久ガス(俗にいう“マスタードガス”)、それも敵航空機による散布(いわゆる“ガス雨下”)から身を守るものです。装備品から当時の戦法を垣間みることができます。

 化学防護諸器材技術教範(TM 3-290)には、1945年4月に発行された補遺C3があります。そこでは、戦争後期に標準装備とされていた3種類の防毒面に対応する付属器材と収容嚢への入り組み方法がイラストで示されています。上から順に、ライトウェイト・サービス・マスク、サービス・マスク、最下段は1944年から製造がおこなわれた新型防毒面、コンバット・サービス・マスク(COMBAT SERVICE MASK)の付属器材を示しています。なお、コンバット・サービス・マスクは、試験段階でアサルト・ガス・マスク(ASSAULT GAS MASK)と呼ばれていました。日本では、アサルト・ガス・マスクのほうが馴染みのある名称かと思います。

 これら戦争後期に標準装備だった3種類の防毒面には、共通して次のような器材が付属し、収容嚢に入ります。先ほどご紹介した1944年時点から変更があります。

  • PROTECTIVE OINTMENT AND BAL #軟膏及び解毒剤
  • EYE SHIELDS #眼帯
  • PROTECTIVE COVERS #防護合羽(2枚)
  • ANTI DIM #曇り止め

 1944年時点から変更されているのは、軟膏が解毒剤(眼軟膏としてつかう)とセットになったものに変更されていること、補修や封密につかう粘着布が除外されていること、そして、新たに曇り止めが追加されていることです。粘着布の除外理由はわかりませんが、これからご紹介する防水加工キットに同様の粘着布が含まれています。以下に1945年時点の入組品を写真でご紹介します。

 解毒剤は、眼に付着した持久ガスの効果を解消するための眼軟膏です。1944年までは衛生部(Medical Department)からの支給品でしたが、1945年に採用された新型(KIT, PROTECTIVE, OINTMENT, M5)では、金属製のケースに4本の軟膏と解毒剤(眼軟膏)が入ったセットのかたちで支給されるようになりました。 

 眼帯です。もともとは英軍の装備品を参考に採用されたものです。ビニル製の使い捨てゴーグルで、遮光可能な暗色のものが2枚、透明のものが2枚の計4枚がセットになって、封筒状のボール紙で包装されています。

 防護合羽です。頭からかぶってガス攻撃から身を守るビニル製のカバーが入っています。このカバーの携行定数は2枚です。

 このカバーは1枚が280グラムの重さがあり、入組品のなかでもけっこう嵩張ります。戦地では、このカバーを棄てたり、別の用途に流用する事例が頻発したそうです。1944年に別の用途での使用が正式に許可され、兵器や備品用品の防水シートなどにつかわれたといいます。例えば、HBOで映像化された「The Pacific」の原作となったユージン・スレッジ『ペリリュー・沖縄戦記』では、沖縄戦において防護合羽を迫撃砲の防水カバーとして使用した旨の記述があります。

 防護合羽を別用途で使用する許可がでた理由については諸説ありますが、もともと防護合羽は低温での耐久性が低いという課題がありました。新たに寒地用の防護合羽(COVER, PROTECTIVE, INDIVIDUAL, COLD CLIMATE)が採用されており、従来の在庫品を消費する意図も許可の背景にあったのではないかと考えます。

 曇り止めです。グレーの円筒形の金属缶に、溶剤を含んだ布が入っています。製造時期によって、溶剤が別になっているものもあります。この曇り止めは、1942年から製造されています。曇り止めが標準の入組品となった1945年の規定では定数は1本です。この点、正式な文書は確認できていませんが、2本が支給本数だったという情報があります。旧型のサービス・マスクは呼気によるレンズの曇りが課題でしたので、2本が支給されていたのかもしれません。2本の支給が事実だったとして、1945年の規定で定数が1本とされているのは、サービス・マスクの面体が改修されて曇りが改善したためかもしれません。

 耐水加工具(KIT, GAS MASK, WATERPROOFING M1)です。水没などでの破損を防ぐために、防毒面を密封するためにつかいます。粘着布とホースを挟むクランプ用の金具が作業手順を示す説明書とともにキャンバス地のポーチに入っています。標準の入組品としては規定に示されていませんが、上陸や渡河などの作戦時に支給されたものと思われます。

 ライトウェイト・サービス・マスクの収容嚢に、1945年の規定にある標準の入組品を詰めた様子です。左端のポケットに入っているのが曇り止め、中央のポケットには防護合羽が2枚、右端のポケットには軟膏です。ポケットの外側にみえる茶色のボール紙の冊子状のものが眼帯です。このほかに、作戦に応じて耐水加工具、ガス検知剤などの追加支給がありました。

ここでご紹介している入組品の収容例は、先にご紹介した1945年の技術教範補遺C3で示したものと異なります。これは筆者が所有する収容嚢が1944年製造でポケットの構造が異なるためです。規定では、ポケットの左端には軟膏が入り、中央と右端のポケットには防護合羽が1枚ずつ入りますが、この収容嚢のポケットは、左端の軟膏入れが旧型(OINTMENT, PROTECTIVE, M4)のサイズでつくられており、新型(M5)が入りません。このため、規定とは異なる収納の仕方となっています。

 最後に、入組品の重量について計るとともに、リエナクトメントにおける再現について考えてみたいと思います。

 1945年の規定による標準の入組品の重量です。軟膏は中身が入っていない空き缶です。軟膏は18グラムのチューブが4本と眼軟膏が入っていましたから、ここに示した実測値(765グラム)にプラスすると、規定上の入組品の重量は約850グラム程度と考えて良いと思います。

 収容嚢に入組品を入れて重量を計ってみると、サービス・マスク(M2A2)が約3キログラム、ライトウェイト・サービス・マスクは約2.6キログラムになりました。かなりの重量です。兵士が棄てたくなる気持ちも想像できますね。

 第二次世界大戦において、防毒面は個人携行が定められた装備品ですが、米軍歩兵の再現において、防毒面を収容嚢から取り出すことは基本的にありません。リエナクトメントのレギュレーションにおいては、収容嚢を必須とする一方で、中身は不問とすることが一般的です。これは、防毒面や付属品が入手困難であること、貴重なコレクションを紛失や破損から守るという点でも、理に適っていると思います。

 収容嚢に代用品を入れて実際の重量を再現するのは、当時の兵士らの感覚を追体験するひとつの方法です。ホームセンターなどで購入可能な焼成れんが(普通れんがと呼ばれる一般的なサイズの赤レンガ)は約2.4キログラムです。ライトウェイト・サービス・マスクの重量を再現するにはよいと思います。


文中でご紹介した器材のうち、防護合羽や曇り止めなどの入組品の一部を、ヤフーオークションに出品しています。ご関心のある方は、下記のバナーをクリックして、ご覧ください。

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カートリッジ・ベルトのポケットすべてに弾を入れてはいかんのや。

弾帯にポケットがあれば、そこに弾が入ると思うのは人情というもの。

 アモカンのマーキングに続き、過去の不勉強を訂正するのが今回の記事の主旨です。

 需品部(QMC)の備品カタログに掲載されているイラストです。WW2米軍の小銃用弾帯であるカートリッジ・ベルト(BELT, CATRIDGES, CAL. .30, M-1923)が紹介されています。上の“DISMOUNTED”とあるのが徒歩行軍の歩兵用、“MOUNTED”とあるのが騎兵用です。この弾帯が採用されたときのサービス・ライフルは、手動装填式のM1903ライフルですが、のちに自動装填式のM1ライフルが採用されたあとも、この弾帯はそのまま使用が継続され、1945年の戦争終結までつかわれました。

 3年前に、M1ライフル用の弾帯と布製の簡易弾帯(バンダリア)に、金属製で8発用の挿弾子(クリップ)とダミーカートをいっぱいにつめたときのツイートです。嬉しそうですね。無知ってこわいですね。

 ツイートしたときにつかった弾帯は、あまり再現度の高くないレプリカでしたが、その後、実物を入手しました。自分は被服装備に関心が薄く、目が節穴なので、実物ならばイベントで一緒に活動する仲間に迷惑をかけないだろうと考えたからです。なお、今は再現度の高い良質のレプリカをつかうべきという考えです。

 実物は、ものによって一世紀近い年月が経っていますから、経年による劣化を免れません。筆者が所有する弾帯も、留め金が外れたり(写真左)、ベルトに破れが生じたりしています(写真右)。そもそも古くて見た目もよくありませんし、レプリカに更新しないといけないですね。

 本題にもどります。

 弾帯には、ポケットが10個ついています。弾帯ゆえに、ポケットの数だけ、弾薬が入ると思い込んでしまいますが、実際にはそうではありません。

 筆者が所蔵するフォートベニング歩兵学校の資料には、歩兵連隊が装備する火器1丁あたりの弾薬定数が掲載されています。下記はその弾薬定数表から、ライフル中隊小銃小隊が装備する火器について抜き出したものです。

  • Carbine, cal. .30, M1 個人携行数【60】、段列携行数【0】、合計【60】
  • Rifle, cal. .30, M1 個人携行数【48】、段列携行数【96】、合計【144】
  • Rifle, cal. .30, M1903A4 個人携行数【40】、段列携行数【120】、合計【160】
  • Rifle, Auto, cal. .30, M1918A2 (BAR) チーム携行数【380】、段列携行数【360】、合計【740】

 ここにいう個人携行数とは、行軍時に兵士が携行する弾数になります。攻撃時には、必要に応じて段列から追加の弾薬を受領します。段列携行数とは、この火器1丁あたり追加で支給可能な予備弾薬を示します。簡易弾帯(バンダリア)や紙箱で輸送します。

 M1ライフルの弾薬定数をみてみましょう。個人携行数はわずかに48発です。M1ライフルは、8発入りの挿弾子(クリップ)を装填につかいますので、6装填分ということになります。弾帯のポケットは、1ポケットに1クリップが入りますから、ベルトのポケット10個のうち、6つを弾薬入れとしてつかうことになります。定数上は、すべてのポケットに弾薬を入れないわけです。

photo by 太郎丸

 徒歩行軍の装備を身に付けた様子です。実際に規定の装備を身に付けてみると、弾帯で後ろ側に位置するポケットは、ほかの装備品の干渉もあり、自分の手でポケットから弾薬を取り出すことは困難です。弾薬を入れるポケットは、取り出しやすい前側の左右6つのポケットになるでしょう。なお、簡易弾帯(バンダリア)は装備の上からたすき掛けにしますから、出し入れの不便はありません。

 先ほどご紹介したとおり、もともとこの弾帯は、M1903ライフル用として採用されています。M1903ライフルは、弾薬を5発の挿弾子で装填します。弾帯のポケットは、5発クリップを2つ入れるようにつくられています。フラップが付いているのは、1つの挿弾子を取り出すときに、もう1つの挿弾子が一緒に出てきて、取り落とさないようにするためです。

 先ほどの弾薬定数では、M1903A4(狙撃専用銃)は個人携行数が40発となっています。これは5発クリップで8回の装填分になります。弾帯では4つのポケットをつかう計算になります。M1ライフルと同じように、前側の左右のポケットをつかうと考えてよいと思います。

 弾帯で弾薬が入るポケットは、M1ライフルでは6ポケットだけです。M1903A4ライフルではさらに少なく4ポケットだけです。それでは、弾薬が入らない残りのポケットには、なにが入るのでしょうか?

 軍需部(ORD)が発行する備品カタログリストに掲載されているM1ライフルの属品です。弾薬の装填につかう挿弾子や負い革(スリング)を除くと、基本的には小銃の手入れにつかう物品となります。なお、ここには消耗品は掲載されていません。

 装薬銃は、射撃後に銃控の清掃が不可欠です。火薬が燃焼した際に出るガスが金属製の銃身を腐食させるからです。また、雨滴による腐食や、砂塵などの異物による動作不良を防ぐためにも、頻繁な手入れが必要です。兵士にとって銃の手入れは、兵士である限り常につきまとう面倒な仕事であり、手入れにつかう道具も常に携行していなければならない装備品でした。

 部隊管理品と考えられる工具類を除いたうえで、小銃野戦教範(FM 23-5)及び小火器整備技術公報(TB 9-2835-9)に記載の内容から判断すると、兵士個人が携行する小銃手入れ具の属品と用品(消耗品を含む)は、以下のようなものになると考えられます。

  1. BRUSH、THONG、CASE #清掃具 ※グリースを含む。小銃の銃床内に収納。
  2. TOOL #多機能工具 ※薬莢抜きを含む。小銃の銃床内に収納。
  3. SPARE PARTS #予備部品 ※小物入れに収納。
  4. BORE CLEANER #洗浄液
  5. LUBRICATING OIL #潤滑油
  6. DRY PATCHES #拭き布 ※防水紙封筒に収納。

 M1ライフルは、床尾から銃床内に清掃具と多機能工具を収納できます。上記のリストで【1】と【2】にあたるものです。それらを除いた物品と用品をならべたものがこちらの写真になります。右から順に、予備部品を入れる小物入れ、潤滑油(油缶)、洗浄液(使い捨て缶)、拭き布です。ちょうど、弾薬が入らない4つのポケットに収納できます。弾帯でこれらの手入れ具を携行したわけです。

 筆者が所有する弾帯は、右側の一番後ろに位置するポケットが黒ずんでいます。洗浄液を入れていたのかもしれません。

 軍曹(Msg. Merwin J. Toome)が所有するコレクションで再現してくれました。簡易弾帯2本が段列から支給され、弾薬定数の上限である144発の小銃弾を携行する攻撃時の装備です。当時の小銃兵が携行する武器用品が揃っています。

 弾帯には、さきほどご紹介した内容のものが、側背側の4つのポケットに収まります。左側から順に、拭き布、洗浄液、潤滑油(使い捨て缶)、予備部品を入れる小物入れです。なお、簡易弾帯の左側にあるさく杖(クリーニング・ロッド)は、すべての兵士が個人携行するのではなく、分隊で装備していたかもしれません。

 本稿では、フォートベニング歩兵学校の資料に掲載されている弾薬定数をもとに、小銃用弾帯のポケットに入る弾薬の数と手入れ具について検討しました。手入れ具としてご紹介したものは、現時点では、あくまでも推測になります。今後、資料をもとにアップデートできればと思います。もしご存知の方がいらっしゃれば、ご教示いただけますと幸いです。

ガスマスクと入組品 #1

棄てたくなる気持ちはわかる。重いからね。

 第一次世界大戦における教訓から、各国の軍隊は周到に攻撃型の化学戦備を整えるとともに、自軍将兵と器材の防護のための装備も怠りませんでした。

 兵士が携行する防護器材は防毒面(ガスマスク)です。空気を浄化する吸収缶がついたゴム製の面体を顔に押し当てて装着することで、呼吸と目をガス攻撃から守ります。

 1941年に製作された教育フィルムです。ガス攻撃を受けた場合の対応について紹介しています。

 第二次世界大戦で米軍が戦った相手は、いずれも周到な化学戦備がありましたが、報復への恐れと人道的な抑制から、主要戦場において致死性ガスが使用されることはありませんでした。しかし、防毒面をはじめとする防護装備は、戦争が終結する1945年まで継続して装備が続けられました。もちろん、戦後も兵士にとって不可欠の装備として、個人携行が継続されています。

 WW2米軍歩兵が装備した防毒面は戦中に改良が加えられ、多くのモデルとバリエーションがあります。もっとも大きな特徴は吸収缶の改良です。大型の四角い形状から、軽量でコンパクトな円筒形のものに変更されました。面体も構造上の改良や、戦争の進展によって素材を天然ゴムから合成ゴムへ変更しているほか、吸気弁や締帯など、様々な部品によってバリエーションがあります。

 WW2米軍歩兵を再現するうえでオーソドックスな2種類の防毒面をご紹介します。

 サービス・マスク(SERVICE MASK)という名称のものです。中央にある面体とホースでつながった吸収缶が防毒面、左側のキャンバス地のものが収容嚢になります。右側にならんでいるのは、後述する収容嚢への入組品(属品類)です。

 この防毒面は、冒頭の教育映像でも使用されていた従来型の吸収缶を連結していますが、面体は改良されたもので、1942年から製造されています。在庫がある従来型の吸収缶に新しい改良型の面体を交換するなどしているため、バリエーションがあります。この写真の防毒面はM2A2というモデルで、1943年にジェネラル・タイヤ・アンド・ラバー社で製造されたものです。

 吸収缶は収容嚢に入れて、内側にあるストラップで固定します。携行性と防塵防滴とともに、収容嚢に入れることで、ガスの濃度を抑える一次浄化の効果も期待できます。

 ライトウェイト・サービス・マスク(LIGHTWEIGHT SERVICE MASK)という名称のものです。中央が防毒面、左側が収容嚢、右側が属品類です。この写真の防毒面はM3というモデルです。従来の吸収缶が大きく嵩張ることから、小型化と軽量化を目的に改良されたものです。吸収缶は円筒形のコンパクトなものとなっています。面体も内部が曇り防止のために改良されています。面体のゴムの色が灰色から黒色にかわっているのは、戦争による資源節約と代用素材開発で、面体の素材が天然ゴムから合成ゴムに変更されたためです。

 面体の吸気口を内側から撮影した写真です。左側が従来のサービス・マスク、右側が改良型のライトウェイト・サービス・マスクです。改良型は、曇り止めのための弁が新たに設けられています。

 ライトウェイト・サービス・マスクは、1942年に採用され、翌年の1943年から製造が本格化しています。ここで紹介した面体は、グッドイヤー社が1943年に製造したものです。さきほどのサービス・マスクと同じ年に並行して生産がおこなわれていたことがわかります。

 ライトウェイト・サービス・マスクでは、面体と吸収缶をつなぐホースが短くなったことから、収容嚢も新しいショルダーバッグタイプに変更されています。収容嚢は、1943年までは俗にいう“カーキ”色(OD#3)のキャンバス地で生産されていましたが、1944年以降は、先ほどの写真にあるように、濃緑色(OD#7)のキャンバス地で生産されています。

 第二次世界大戦の米軍歩兵を再現するならば、1943年まではサービス・マスク、1943年以降はライトウェイト・サービス・マスクがよいでしょう。

 なお、防毒面のモデルとバリエーションについては、ゴム製の面体に記されたマーキングにある化学部(CWS)が定めた仕様番号または試験番号によって判別可能です。通常は両方が記載されていますが、面体によっては試験番号のみのものもあります。

 面体のマーキングです。製造年とメーカー名とともに、仕様番号と試験番号が記載されています。左がサービス・マスク(M2A2)、右がライトウェイト・サービス・マスク(M3)です。いずれも顎にあたる部分にマーキングがあります。モデル別の仕様番号と試験番号は、US ARMY DATA DEPOTのサイト(フランス語)で詳しく紹介されています。

 ところで、従来型の吸収缶がついたサービス・マスクは、“ヘヴィー・ウェイト”という俗称で呼ばれていますが、米軍ではそのような名称をつかっていません。これは、軽量化された改良型が“ライトウェイト”という名称だったことに対してコレクターが発案した造語ではないかと思います。

 サービス・マスクの重量は約1.8キログラム、ライトウェイト・サービス・マスクの重量は約1.3キログラムです(いずれも筆者所有のM2A2とM3を実測した値での比較)。重量差では約500グラム、約3割ほどの軽量化がはかられています。

 1949年に公開された映画「Battleground」(邦訳版「戦場」)では、主人公らが行軍中に収容嚢から防毒面を取り出し、側溝に棄てるシーンがあります。実際にこのような行為が頻発したそうです。

 劇中で棄てられているのは、軽量化されたライトウェイト・サービス・マスクです。徒歩行軍の兵士にとっては、たとえ改良で軽量化されていても、重くて嵩張る“お荷物”なわけです。そして、実際には、個人携行の化学防護器材は防毒面以外にもあり、収容嚢に入れて携行します。それらの入組品を含めると、さらに重くなります。

 次の記事で入組品についてご紹介します。


映画「Battleground」(邦訳版「戦場」)は、戦争終結からわずか5年後に製作されたこともあり、ヨーロッパ戦線における米軍歩兵の様相をよく再現しています。Amazon Prime Videoで視聴できます(2020年10月現在)。

WW2米陸軍ライフル中隊の備品一覧

フォートベニング歩兵学校の資料をもとに、 1943~1944年時点の米陸軍ライフル中隊が装備携行した備品のリストを紹介します。

 WW2米陸軍ライフル中隊には、1/4トントラック(いわゆる”ジープ”)と1/4トンの牽引車(トレーラ)が火器小隊に2台ずつ配属されていますが、大隊支援中隊からも2.5トントラック及び1トントレーラが中隊の用品備品を積載します。

 筆者が所蔵するフォートベニング歩兵学校の資料です。歩兵連隊の移動と輸送に関する教本です。1943年7月と1944年2月の編成装備表(Table of Organization and Equipment)にもとづく車両搭載許容量表(Loading Table)が掲載されています。そこには標準的な歩兵連隊隷下各隊が使用する装備品が積載車両別に目録として提示されており、原則として個人携行品を除くすべての用品備品を網羅した内容となっています。同資料は、野戦における車両輸送という側面から、これまで必ずしも定かではなかった部隊管理の備品用品を明らかにする内容であるといえます。すなわち、1943年以降のWW2米陸軍歩兵部隊の野戦装備を再現するにあたっては、この目録が目安になるということです。

 本稿では、同資料から、歩兵大隊ライフル中隊の目録をリスト化してご紹介いたします。リエナクトメントやコレクションにお役立てください。

 以下のリストでは、備品の性質用途別にわけたうえで、内容品の数と名称を示します。各項目の先頭は備品数です。英語名称の後に#印で日本語訳を記しています。また、末尾の括弧は車両積載区分を示します。[T]は大隊支援中隊派遣の2.5トントラック及び1トントレーラ、[Jl]は火器小隊機関銃チーム配属の1/4トントラック及び1/4トンの牽引車、[Jm]は同じく火器小隊迫撃砲チーム配属の1/4トントラック及び1/4トンの牽引車です。車両積載区分のコロンマークの数字は積載数の内訳を示します。

 1943年7月時点では配備されていたものの、1944年2月時点ではリストから削除されているもの、逆に1944年2月に新しくリストに加えられた物品は、戦法と部隊運用に変化があったことを示します。リストでは1944年2月時点で削除されたものは数量に「-」印を附し、新たに加えられたものは数量に「+」印を附したうえで、名称は下線で示しました。これらについては、リストから読み取れる特徴とともに、リストの後で個別にコメントします。

【中隊事務用品】
1 Desk, field, empty, fiber, Co #野戦書棚(中隊用) [T]
1 Chest, record, fiber #書類入れ [T]
1 Typewriter, portable, w/carrying case #タイプライター [T]
1 Flag, guidon, bunting #旗竿 [T]

【野営具】
1 Fly, tent, wall, large, complete w/pins & poles #ラージウォールテント [T]
1 Screen, latrine, complete w/pins & poles #トイレ用仕切幕 [T]
6 Officer’s bedding rolls #将校用寝具 [T]
2 Lanterns, electric, portable, hand #電燭 [T]
+1 Lantern, gasoline, two mantle, commercial #ランタン [T]

【糧食】
2 Bags, canvas, water sterilizing, complete w/cover & hanger #水嚢 [T]
2 Buckets, general purpose, galvanized, hvywt w/o lip, 14-qt #バケツ [T]
1 Cans, set, corrugated, nesting, galvanized, w/cover; 10-gal, 16-gal, 24-gal, 32-gal #蓋付き缶 [T]
39 Cans, water, 5-gal (full) #水缶 [T]
8 Containers, round, insulated, M1941, w/inserts (empty) #食缶 [T]
3 Heaters, immersion type for cans, corrugated #煮沸器 [T]
1 Range, field, M1937, 3 unit #レンジ [T]
1 Tool box, for field range M1937, w/tools #レンジ用工具 [T]
1 Drum, inflammable liquid, (gasoline) w/carrying handle, 5-gal (full) #ガス缶 [T]
193 Rations #レーション [T]
+16 Outfits, cooking, 1-burner #シングルガソリンバーナー [T]

【衛生・理髪器材】
1 Kit, barber, w/case #理髪具 [T]
6 Clippers, hair #バリカン [T]
2 Kit, first-aid, motor vehicle, 12-unit #救急キット(車載用) [T:1/Jl:1]

【作業具】
5 Pr gloves, protective, impermeable #ゴム手袋 [T]
11 Mittens, asbestos, M1942 #耐熱手袋 [T:1/Jl:4/Jm:6]
5 Suits, protective, onepiece, impermeable #防汚着 [T]
-1 Tool kit, carpenter’s (complete w/tools) #大工道具 [T]
+1 Tool kit, carpenter’s #2 (complete w/tools) #大工道具 [T]
+26 Packboards, plywood, w/attachments and straps #背負子 [T:3/Jl:6/Jm:12]
1 Goggles, M1943, w/redlens #ゴーグル [Jl]

【通信・信号器材】
1 Radio set SCR-300 #無線機(大隊―中隊連絡用 ※大隊通信小隊から貸出) [Jl]
6 Radio sets SCR-536 #無線機(中隊―小隊間連絡用) [Jm]
2 Reel Equipment CE-11 (ww/0.25 mile wire W-130 ea.) #無電池音声通話回線 [Jm]
2 Tool Equipment TE-33 #電工具 [Jm]
-5 Flag sets M-133 #信号旗 [Jl]
3 Panel sets AP-50-A #対空信号板 [Jl]
4 Projector, pyrotechnic, hand, M9 #信号発射器 [Jm]
40 Signals, aircraft #信号弾 [Jm]
30 Flares, trip, M49 #信号花火 [Jm]
50 Signals, ground, assorted #信号弾 [Jm]

【化学戦器材】※個人携行分を除く。
-2 Apparatus, decontaminating, 1 1/2-qt, M2 #除染器 [T]
-3 Apparatus, decontaminating, 3-gal, M1 #除染器 [T]
1 Alarm, gas, M1 #ガス探知器 [Jl]
8 Kit, first-aid, gas casualty [Jm]

【武器】※個人携行分を除く。
1 Guns, machine, cal. .50, Browning, M2, HB, flexible #50口径機関銃 [Jl]
2 Guns, machine, Browning, cal. .30 M1919A6 #30口径機関銃 [Jl]
3 Mortar 60-mm, M2, w/mount #迫撃砲 [Jm]
-5 Launchers rocket, 2.36″, M1 #バズーカ [Jl:3/Jm:2]
+5 Launchers rocket, 2.36″, M9 #バズーカ [Jl:3/Jm:2]

【兵器整備用具】※個人携行分を除く。
1 Chest, steel M5, repair, Rifle, cal. .30, M1 #小銃用整備具 [T]
1 Set parts, spare, carbine, cal. .30, M1 #カーバイン用予備部品 [T]
1 Kit, cleaning, pistol, cal. .45 #拳銃手入れ具 [Jl]
1 Chest, steel, M5, repair, cal. .50 MG (w/spare parts) #50口径機関銃整備用具及び予備部品 [Jl]
2 Chests, steel M5, repair, cal. .30 MG (w/spare parts) #30口径機関銃整備用具及び予備部品[Jl]
3 Spare parts and accessories, Mortar 60-mm, M2 #迫撃砲予備部品及び用品 [Jm]

【弾薬】※個人携行分を除く。
660 Rounds cal. .50 MG Ammnunition #50口径弾 [Jl]
4000 Rounds cal. .30 MG Ammunition (16 chests) #30口径弾 [Jl]
144 Rounds 60-mm Mortar Ammunition (8 bundles) #迫撃砲弾 [Jm]
30 Rockets, 2.36″ #ロケット弾 [Jl:18/Jm:12]
15 Bags carrying, rocket, M6 #ロケット弾嚢 [Jl:9/Jm:6]
60 Device, firing #点火具 [Jl]

【擬装具】
-1 Net, camouflage, cotton, shrimp, 29′ x 29′ (for Trailer) #偽装網(シュリンプ)[T]
-2 Net, camouflage, cotton, shrimp, 22′ x 22′ (for Trailer) #偽装網(シュリンプ) [Jl:1/Jm:1]
5 Nets, camouflage, twine, fabric garnished, 15′ x 15′ #偽装網 [Jl:2/Jm:3]

【車両備品】
1 T/E Truck 2-1/2-ton & 1-ton Trailer Equipments #車両整備具 [T]
2 T/E Truck 1/4-ton & 1/4-ton Trailer Equipments #車両整備具 [Jl:1/Jm:1]
-3 Scabbard, rifle, M1938 #銃嚢 [T:1/Jl:1/Jm:1]
1 Mount, Truck, pedestral, M31 #機関銃用銃架 [Jl]
1 Mount, MG, cal. .30, M48 #機関銃用銃架 [Jm]

 リストの内容をふまえて、筆者なりに着目したい特徴をコメントしたいと思います。

 まず、【中隊事務用品】と【野営具】をみるとわかるように、テーブルやイス、組み立て式のベッド(フィールドコット)がリストにはありません。実はこれらは歩兵連隊全体でも計上がありません。すなわち、野戦で移動する歩兵部隊では、腰掛けそのものが考慮されていないことがわかります。実際には事務に不便でしょうから、折り畳み式のテーブルやイスの支給を受けたり、弾薬の空き木箱などを流用していたと思われます。

 次に、火器小隊が装備する30口径機関銃は、1943年に採用された新型で二脚式のM1919A6となっています。このため、A4型で使用する三脚がリストにはありません。実際には多くの歩兵部隊は終戦までA4型を装備していました。なお、A6型が優先配備された日系部隊では、射撃の安定性からか、三脚を継続使用していることが記録写真に残っています。50口径機関銃は車両銃架で使用することを前提としているので、リストに三脚はありません。

 次に1943年7月と1944年2月で変更のあった物品について個別にコメントします。

 まず【野営具】でガソリンランタン、【糧食】でシングルガソリンバーナーが追加されています。いずれも野戦における実態を反映したものと考えます。ランタンは電池供給の限界、シングルガソリンバーナーは中隊による一括配膳が困難な状況でも分隊別に温食提供を可能にすることが理由と思われます。

 次に【作業具】では、大工道具が更新されたほかに、背負子(パックボード)が配備されたことが特徴的です。米軍の背負子はユーコン型と呼ばれる初期タイプがありますが、歩兵連隊では背負子は1944年以降の新しいタイプのみが標準装備だったことがわかります。

 【通信・信号器材】では、信号旗が廃止されたことがわかります。また、【化学戦器材】では、除染器が撤去されています。いずれも戦法・部隊運用の変更を受けてのものと思われます。【武器】はバズーカがM1から新型のM9に更新されたほかは変更ありません。

 【擬装具】は、車両用(トレーラ)の偽装網が廃止されています。当初、車両用の偽装網は、シュリンプタイプと呼ばれる編み目が細かいものが採用されましたが、隠蔽効果が低いことから使用が中止されました。シュリンプタイプのネットは裁断され、兵士のヘルメットネットに転用されました。本リストの車両用偽装網の廃止は、そのエピソードを裏付けるものです。

 最後に【車両備品】です。銃嚢が廃止されています。これは各車両に備え付け型のラックが整備されることを反映してのことでしょう。なお、火器小隊の2台の1/4トラック(”ジープ”)が備える機関銃用銃架は、機関銃チームが後席に備え付ける50口径用のM31、迫撃砲チームが助手席に備え付ける30口径用のM48です。

 フォートベニング歩兵学校の資料から、ライフル中隊が管理する備品用品をご紹介しました。実際の史実においては、コメントとしていくつか記したように、上記リストと齟齬があります。それらについては、当時の記録写真や戦記・回想録の記述などを参考に、皆さんが目指す再現対象の実態を考究していただければと思います。

分隊向けの偽装網

偽装網は、車両や野砲の対空隠蔽用だけではありません。WW2米軍歩兵にも支給がありました。機関銃と迫撃砲の隠蔽用です。車両用よりも小さめです。

 擬装教範にある機関銃向けの偽装網の使用例です。フラットトップという基本の張り方です。平地で機関銃座の四方に約60センチの支柱を立て、偽装網を張ります。張り綱はテントのロープをつかえとあります。

 WW2米軍ライフル中隊には、火器小隊の軽機関銃と迫撃砲チームに、それぞれ隠蔽用の偽装網が交付されていました。軽機関銃が2分隊、迫撃砲が3分隊なので、偽装網の定数は5です。

 偽装網は、コットンまたは麻で編まれた編み目が2インチ(約5センチ)で15フィート(約4.57メートル)四方のものです。消耗品なので、WW2当時の現存品は滅多にありません。同様の偽装網で大型のものを求める海外の軍用車両のコレクターは、コットン製の中古漁網を流用して再現しています。

 自分も数年にわたり探しつつ、中古漁網から作成するほどの気力はなく。あるとき運良く国内で戦後の同型品を入手できました。在日米軍の放出品です。網の間に引っ掛かっているように見るのは、偽装用の麻テープです。取り切れなかったのか、少しだけ付いてました。

 偽装網は、草木を模した布きれを編み目に結び、偽装効果を高めます。偽装教範に掲載されている、麻テープをつかった偽装パターンです。左上から時計回りに、蛇行、U字、蝶結び、あて布です。当時の写真で最もよく目にする偽装パターンは左上の蛇行かと思います。 偽装パターンは、中心を密に、外側に向かって粗につくれとあります。

  銃後で偽装網に偽装パターンを編み込んでいる様子です。偽装教範には、後述のように、四季と環境に応じた配色比率と、どれくらいの麻テープと作業時間が必要かの見積もりがあります。支給された素の網に、ロール状の麻テープをつかい、偽装パターンを現地でつくることが想定され、実際にそのように運用もされていたでしょうが、この写真のように、銃後であらかじめ偽装パターンが編み込まれたものが戦地に送られた例もあったようです。

 偽装教範に掲載されている表です。上段が配色比率、下段が偽装パターンの作業見積もりを示しています。

 配色比率は、夏・冬(雪以外)・砂漠の三種類が掲載されています。夏は緑系の比率が高く、冬は茶系の比率が高くなっています。砂漠は淡茶系です。季節や環境の変化に応じて配色は変更することが必要ですが、 塗料をつかうことも認められています。

 偽装パターンの作業見積もりには、必要な麻テープの長さとロール本数、一人の兵士が作業にあたったときの作業時間(人足)が掲載されています。1パターンに要する麻テープが60インチ(約1.5メートル)とあるのは蛇行パターンを想定していると思われます。

 ライフル中隊火器小隊用の偽装網は、もっとも小さい15フィート四方のものです。パターン数は150~175個、必要な麻テープの長さはおよそ250メートルほどでロール2~3本分、作業時間は3時間とあります。

 パターン数が少し多い気がします。かなり密になりそうです。ロールは沖縄の放出品業者から70年代のものを取り寄せることにしました。実際に試してみます。