頭文字は”Knock it off!”の”K”(嘘)

それっぽくみえて、ちゃんと食べられるけれども、当時の兵士と同じく満足感は感じられないリアルなレーション再現。

前回の記事「DINNERは夕食じゃないんやで。」では10in1レーションの再現についてご紹介しました。今回はKレーションです。

1942年に戦闘糧食としてお目見えしたKレーションは、それまで簡易といえども配膳を必要としていた食事を個別支給で賄うことと、タバコやマッチ、トイレットペーパーなどの生活必需な消耗品も同時に支給できるという点で画期的なものだったようです。

前回の記事でもご紹介した戦時中に生産されたレーションの生産量とコストの一覧です。総生産量は2億3317万ケース・約84億食分で、Cレーションに匹敵する生産量でした。1942年と比較的遅い登場にもかかわらず、主要なレーションとして消費されたことは、10IN1レーションと同様に、その性能が高く評価された証といえるでしょう。

Kレーションは、昔からレプリカが多く市販されてきました。カラフルなパッケージを目にしたことのある方は多いでしょう。しかし、このカラフルなパッケージは、戦争のかなり後半に登場したもので、1944年まではクラフトボール紙に黒インクの文字を印刷しただけの地味なパッケージでした。

今回、再現したKレーションのひとつです。1943年後半から44年半ばにかけて戦地で消費されたタイプで、リエナクトメントやイベントでつかうことの多い昼食(Dinner)を再現しています。内容物は缶詰(肉料理)、ビスケット2種、キャンディ、レモネード、砂糖、ガム、タバコ、マッチです。包装と内箱への収納方法は実物に準じています。

後述するように内容構成は時期によってかなりの変更がありました。内容構成については、再現品をもとに1944年10月生産分についてご紹介するとして、最初にパッケージのつくりかたをご紹介したいと思います。

Kレーションのパッケージは、クラフトボール紙製の外箱と内箱の二重構造です。これは1942年の登場から1945年の戦争終結まで、若干のサイズ変更やデザインの更新があっただけで、構造自体にかわりはありせんでした。

パッケージは実物を参考に外箱と内箱をそれぞれ展開図で出力して制作しています。A3までのサイズで0.7mm厚までの厚紙印刷に対応可能なプリンターであれば展開図で出力が可能です。

作成したパッケージの展開図です。左側が外箱、右側が内箱です。パッケージには品名・製造者名・注意書き・メニュー構成を記載することなどが仕様書に定められていますが、時期と製造メーカーによって記載の方式は多少異なります。今回はPatten Food Products社のものを再現しています。

Kレーションの内箱は蝋引き(パラフィン浸漬)で防水加工されています。蝋引きのために戦地では焚きつけに最適だったようです。時期によっては内箱を蝋引き紙で包装して防湿する方式もあったようです。

当時の製造工程では、溶かしたパラフィンの鍋に組み立てた箱を浸漬していたようです。家庭で再現する方法で効率的な方法を模索した結果、ステンレスのバットに敷いて布に溶かした蝋を染み込ませて箱を浸けると、蝋がつきすぎずムラも少ない、いい塩梅にできることがわかりました。

お馴染みのカラフルなパッケージと再現した内容品です。外箱と内箱はチェコスロバキアの業者が市販しているレプリカパッケージを組み立て、内箱を蝋引き処理しています。そのほかの内容品と個包装類は、すべてデータ作成から再現しています。

カラフルなパッケージは、1944年5月から生産がスタートしています。この写真は、1944年10月に欧州戦線で撮影されたそうです。兵士の足もとにカラフルなパッケージのKレーションが見えます。生産から戦地に到着するまでのタイムラグを考えると、この写真はカラフルなパッケージの新型Kレーションが届いた最初の頃ではないかと思います。リエナクトメントにおける再現でKレーションをつかう場合には、44年後半までは単色のパッケージのものを、44年後半以降はカラフルなパッケージのものをつかうとよいでしょう。

QMC(需品総監部)の公刊戦史に掲載されている1943年初頭のKレーションの内容構成です。Kレーションは、1942年に登場してから1945年の戦争終結までの間に、およそ6回ほどの変更がなされています。そのうち内容品の構成に変更を生じたのは5回のようです。1944年5月に生産が開始されたカラフルなパッケージのものも、半年後の44年10月に内容構成が変更されています。このときはカロリー強化のほかに、スプーンやコーヒーを増やすなど、戦地からの要望に応えたものになっています。以下では44年10月に生産されたタイプの再現品についてご紹介します。

※以下に示す再現品は、いずれも現代におけるリエナクトメント活動で消費可能なように、市販食材をKレーション風にパッケージし直したものです。実物とは形状や材質、栄養諸元、構成方法等が異なります。

朝食(Breakfast)です。缶詰、ビスケット2種(92g)、フルーツバー(57g)、コーヒー(5gx2袋)、砂糖(28g)、ガム1枚、タバコ4本、ティッシュ1ロール、スプーン。ビスケットは1種類に変更され、あらたにシリアルバーが追加されています。デザートはフルーツバーから変更ありません。フルーツバーはKレーションのデザート類でいちばん人気があったそうです。コーヒーはネスカフェが開発したもので、従来のインスタントコーヒーよりも格段に美味しくなりました。1袋が追加されて2袋(2杯分)となっています。1袋の容量は5グラムで、キャンティーンカップに2/3程度の水で溶かすとちょうど良い濃さの量です。ティッシュはパッケージ容量の点で従来の夕食から朝食に移されています。木製の使い捨てスプーンが新たに追加されました。砂糖とガム、タバコは変更ありません。

昼食(Dinner)です。缶詰、ビスケット2種(92g)、チョコレートバー(57g)、レモンジュース(7g)、砂糖(28g)、ガム1枚、タバコ4本、ブックマッチ10本、スプーン。従来からの変更点は、デザートがキャラメルからキャンディまたはチョコレートヌガーに変更になっていることです。本再現品では従来のパッケージでチョコレートバーを包装しています。可溶性飲み物は、オレンジジュースまたはレモンジュースまたはグレープジュースです。本再現品ではレモンジュースとしています。三食のうち唯一ブックマッチがつくのは従来通りです。スプーンが追加されています。砂糖とガム、タバコは変更ありません。

夕食(Supper)です。缶詰、ビスケット2種(92g)、キャラメル(57g)、ブイヨン(10g)、コーヒー(5g)、砂糖、ガム1枚、タバコ4本、スプーン。ビスケットは大きめの長方形で堅パンのようなもの1種類に置き換えられましたが、本再現品では従来の2種類で再現しています。デザートはチョコレート(またはDレーションバー)からキャラメルに変更されています。また新たにコーヒーと砂糖が追加されました。日系部隊では、現地で仕入れた食材とレーションのブイヨンと砂糖をつかって、すき焼きやチキンヘカをつくったそうです。ティッシュは朝食に移動しています。スプーンが追加されているのは朝食・昼食と同様です。

今回のKレーションの再現で使用した市販食材(一部)です。ビスケットは、市販のプレーンと全粒粉のクラッカー2種類で代用しています。缶詰は肉料理のもので、現時点で比較的入手が容易なものは、ホーメルブランドのコンビーフハッシュなどがあります。当時のオリジナルのサイズに該当する食缶が市販品で存在しないため、缶詰は一回り小さいサイズとなっています。

再現品の缶詰は内容量80gで質量は実物の2/3になります。缶詰の開封方法は、実物が側面からの巻き取り式でしたが、再現品は現代のプルトップです。今回の再現品では1944年頃から実施された隠蔽目的のOD塗装を施しています。

市販品の食缶とビスケット(クラッカー)の違いはカロリーにも反映されています。再現品のKレーション1箱あたりのカロリーは実物比7割ほどの850kcal程度となっています。前回の記事にも記しましたが、現代人がリエナクトメントで活動する際の運動量にはむしろ適当ではないかと思います。

次に、再現品のうち、主に副食やアクセサリー類についてご紹介したいと思います。

最初にデザート類です。チョコレートバーとガムは市販品をラッピングし、キャラメルは再現小箱に詰め替えています。唯一フルーツバーだけが市販品で存在しないので、ドライフルーツを刻んでバー状に整形したものをフィルムでラッピングしています。

次に飲み物類です。インスタントコーヒー、レモンジュース、ブイヨン、砂糖です。すべて市販品を再現パッケージに詰めたもので、パッケージはOPP袋とアルミ蒸着袋をプリンター対応フィルムで挟んで、中身を入れたあとにシーラーで密封しています。砂糖は本来の形状と異なりますが、質量(28g)は近づけています。

非食品のアクセサリー類です。ティッシュペーパー、タバコ、マッチ。タバコは4本入りの小箱が朝昼晩3食に入ります。両切りピースがちょうど合います。マッチは業務用の無地のブックマッチからマッチを外したものに複製ブックをつけています。当時の頭薬色はピンクなので、あくまでも代用になりますが、実際にリエナクトメントで使用することが可能です。

今回、Kレーションを再現して感じたことは、小さいパッケージで必要なカロリー(1食あたり1000kcal超)を満たすために糖分がすごく多いことでした。再現につかった市販品の栄養成分表示に基づいて試算すると、おおよそカロリー摂取の44%を糖分が占めます。これは缶詰とビスケットに含まれる糖分を除いた値ですから、数日の間、Kレーションを三食続けていると糖分の多さで胃もたれしそうです。Kレーション不評の一因かもしれません。

追記:Kレーションの”K”は、開発に携わった栄養生理学の権威であるアンセル・キース博士の姓から名付けられたそうです。”Knock it off!”ではありません。

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