DINNERは夕食じゃないんやで。

WW2米軍でもっとも多く喫食されたであろう10IN1レーション。キャンプをともなう演習で実際に喫食(消費)が可能なものとして、市販食材を流用した再現を目指します。

2017年にBCoへ参加してから今日まで、先任(@xxkfirxx)が用意してくれるレーションを当たり前のように食してきたわけですが。新型コロナウィルス感染症の影響で移動が制限されているなか、これまで活動を担ってきた関西に対して、新しいメンバーが増えてきた関東でも活動の質を担保したい。そんな軍曹(@bco_100bn)の唆かしを真に受けて、レーションの再現に着手したわけです。道半ばですが。

再現するレーションは、キャンプをともなう演習で実際に喫食(消費)が可能なものです。パッケージ類を模したうえで、入手が容易な市販食材を流用して、当時の内容構成に近いかたちでの再現を目指します。今回、取り組んだのはKレーションと10IN1レーションです。この記事では10IN1レーションをご紹介します。

10IN1レーションは、10名に1日の朝昼晩3食を提供できるように、30食分がワンパッケージになったものです。第二次世界大戦中の1943年に開発されました。白黒写真が43年に採用された当初の構成、カラー写真がおそらく最終仕様の44年後半以降の構成を示しています。

10IN1レーションは、戦争が終結した45年には廃盤になっているため、Kレーションなどに比べてマイナーな印象がありますが、実は戦争中のレーションのなかでもっとも多く生産されています。

この表は、QMC(需品部)が1958年にまとめた公刊戦史に掲載されている戦時中に生産されたレーションの生産量とコストの一覧です。10IN1レーションの総生産量は3億1106万ケース・約93億食分で、すべてのレーションの生産コストに占める割合は約4割を占めています。戦時中に米軍兵士が消費したレーションで、10IN1レーションはもっとも多かったと言えると思います。

戦争は破壊をもたらす一方で、イノベーションを生み出す原動力でもあります。戦時中は、新しい食材の開発によって、レーションの内容構成も頻繁に変更がなされています。米軍の地上戦用レーションでは、おおまかに半年に1回は仕様変更がおこなわれているといえます。このため、想定時期に応じた仕様を確定したうえで再現する必要があります。

仕様が決定(変更)されてから、実際に新しい仕様に則った生産品が出荷されて戦地に届くまでは、おおむね半年ほどのタイムラグがあったと思われます。BCoがメインで活動する時代である1944年初頭から1945年までとなると、おおむね1943年半ばから1944年後半頃までの仕様を再現する必要があります。

10IN1レーションが採用された頃の最初の仕様です。メニューは、1・2・3・4・5が用意されています。これら朝昼夕の3食に、浄水剤やマッチ、タバコ、ペーパータオルといった最低限の生活必需品が付属します。

朝食(BREAKFAST)と夕食(SUPPER)は5名分が1セットです。缶詰やビスケットを開封して配食することが必要ですが、昼食(DINNER)はパーシャル・ディナー・ユニットと呼ばれるKレーションを流用したものになっており、行動食として個別配布が可能になっています。

今回は直近の演習に向けた再現ということもあり、演習の想定時期である1944年初頭に戦地で配食がされたであろう、43年後半の仕様で再現することにしました。依拠した情報ソースは、QMCが1944年9月にまとめた公刊戦史”The Development of Special Rations for the Army“と、ネット上に散在する実物写真、そしてHarryさんのサイト(http://www.kration.info/)です。

43年後半の仕様は、前掲のメニューから大きな変更はないものの、個別の食材についてはじゃっかんの変更がなされています。今回は、それらを反映したかたちで、再現をおこないました。

再現した10IN1レーションです。山梨県北杜市のスティルフォレストさんのフィールドをおかりして実施した1泊2日の演習で消費しました。このときは夕食を別の調理再現(日系兵に馴染みがあるチキン・ヘカ)に充てたため、10IN1レーションは、初日の昼食と翌朝の朝食の2食で消費をおこないました。パッケージはメニュー3ですが、内容の構成は、昼食(パーシャル・ディナー・ユニット)がメニュー3、朝食・夕食はメニュー1を反映したハイブリッドになっています。

初日の掩体構築時に昼食を配布している様子です。ビーフシチューの缶詰にビスケット2種・チョコバー・コーヒー・砂糖・ガムがセットになったパーシャル・ディナー・ユニットと、タバコ(10本パック)とブックマッチをあわせて配給し、各自が掩体構築場所で喫食しました。

翌朝の朝食です。ビスケットとシリアル、ポークソーセージ、スイートコーン、桃のシロップ漬け、コーヒーです。各自のメスキットに配食して喫食します。前掲のメニュー1のリストを見ていただければわかるように、本来の朝食はもっと質素です。スイートコーンと桃のシロップ漬けは、前夜の夕食で余った缶詰を朝に供与したという想定にしています。

再現したレーションのパッケージと内容構成についてご紹介します。

パッケージは、大きなアウターカートンにスリーブがセットされたもので、この状態で工場から戦地まで出荷されます。実物は耐荷重性が高い硬質ファイバーボード製で、カートンはスリーブにセットされたうえでメタルバンドで緊張されています。今回の再現では箱材の関係でダンボール製とし、メタルバンドは省略しています。

アウターカートンには、“FIRST”と”SECOND”と区別された5名分の異なる内容物が入ったインナーカートンが2組、計4箱が収められています。

“FIRST”は、主食となるビスケットやシリアル、タバコやマッチなどが納められます。後述するように、ビスケット(クラッカー代用)のパッケージ形状がデフォルメされているほかは、当時の雰囲気をよく再現していると思います。内容物は、水濡れを防ぐために防湿内函に収納されています。今回の再現でも実物同様に防湿内函を再現しています。

“SECOND”は、主に缶詰が納められています。缶詰は市販品の包装を取り替えたものです。当時とは缶の規格が異なるため、実際の本数とは異なりますが、規定に近い内容量は実現しています。

今回の再現で使用した市販食材類です。市販食材は、形状や質量が当時と異なる点がどうしても避けられません。当時のメニュー構成にもとづいて、もっとも近いものを選んだうえで、パッケージ類については、食材の形状に応じてデフォルメを加えつつ、視覚的に違和感のない形を再現していきます。

パーシャル・ディナー・ユニットでは、2種類の縦長のクラッカー(ビスケット代用)とチョコレート、コーヒー、砂糖、ガムをビニルパックしたものを紙箱につめます。砂糖は当時の形状のものがないため、角砂糖を規定にちかい質量分の6個で包装、コーヒーは実物を模したアルミ蒸着袋につめていますが、ジャストサイズの袋が見つけられず、規定量5グラムにたいして3グラムと少なめになっています。

重要なのは、すべての構成品目が、インナーカートンとアウターカートンに収まる必要があることです。

製作途中で内容物が収まるか確認したときの写真です。特にインナーカートンの“FIRST”がタイトで、ビスケットとシリアルのパッケージ形状を決めるため、パーシャル・ディナー・ユニット5名分が入ったあとの残スペースに合うように、ダンボールの仮モックで確認をしてからパッケージを作成します。

展開図を出力して組み立てたパッケージ類です。ビスケットのパッケージは市販のクラッカーの形状にあわせて10食分(20袋)を入れるため、横長の形状にデフォルメすることにしました(本来は平べったい長方形)。シリアルは規定に近い質量でインナーパッケージに収納できるギリギリの大きさです。

10IN1レーションの特徴は、食品とともに、野営で必要な最低限度の生活必需品もセットになっていることです。メニューリストにあるように、塩、タバコ、浄水剤、マッチ、缶切り、ティッシュペーパー、せっけん、ペーパータオルが同梱されていました。このうち、今回は塩と浄水剤を除く内容品を再現しました。タバコとマッチは市販品をリパックし、ティッシュペーパーは実物と同様に防湿のエンベロープを再現して、そのなかにつめます。

再現した内容品とパッケージをつめた様子です。演習に出発する5時間前に完成しました。アウターカートンとスリーブの材質が異なること、内容品に不足品があることから、完全再現には道半ばですが、演習で消費する目的は達成できました。

今回の再現と野外における演習での消費を通じて、10IN1レーションの特徴を実感することができました。公刊戦史では、採用試験時の成績で指摘された事項がいくつか挙げられていますが、それは実際に消費(喫食)して納得できるものです。

今回の再現による食品の質量・栄養価(カロリー)は概ね規定の8割強ですが、極端な不足感はなく、現代人がリエナクトメントで活動する際の運動量に適当であると言えそうです。満腹感に乏しいとかビスケット(クラッカー代用)が飽きるとかは、当時の試験成績で出た感想と同じですから、再現としてはいいのかもしれません。

また、せっけんやペーパータオルといった生活必需品がセットになっていることは、非再現品の持ち込みなしで生活が可能という点で、リエナクトメントに適したパッケージであると感じます。

食材とメニュー品目の再現にあたってもっとも困難なのはメインディッシュの缶詰類です。とりわけ昼食にあたるパーシャル・ディナー・ユニットは、今回再現したメニュー3の肉料理以外には、チーズと卵料理の缶詰が充てられることになっています。プロセスチーズと卵料理の缶詰は、輸入品でも見受けられませんので、再現が極めて難しいのが実情です。これはKレーションの完全再現が難しい理由でもあります。今後の課題です。

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