第一線での温食供給とストーブ

戦地において暖かい食事を供給することは、兵士の健康と士気を保つために不可欠です。この温食供給を第一線において実現するために、第二次世界大戦時の米陸軍歩兵小銃中隊には、ストーブによる野戦調理セットが随伴します。

1937年に採用された野戦調理器「Range, Field, M1937」です。従来の薪ストーブによる調理からガソリンバーナーによる調理に切り替えることで、焼く・煮る・くべる・蒸す・揚げるといった調理方法の幅が拡がり、それにともなって戦地で供給できるレシピも多様化しました。

新しいこの野戦調理器はレンジ3台が1セットです。大型で重量があるため、従来のように徒歩行軍での携行はできません。このイラストにあるように、大隊から中隊に割当がある2.5トントラックに積載します。歩兵の野戦糧食をガソリンバーナーによる調理へ切り替えたことは、自動車による輸送編制への変化も反映しています。

ところで、1944年2月時点の編制装備表(TO/E)では、この野戦調理セットに加えて、シングルバーナーの小型ガソリンストーブが中隊に16台が追加配備される変更がなされています。これは、およそ1個分隊に1台の配備数です。これは戦地において中隊糧食班の一括配膳による温食供給がしばしば困難であったことへの解決策でしょう。

1944年のフランス戦線で撮影された写真です。兵士たちがシングルバーナーをつかって、缶詰の野戦糧食(レーション)を温めています。

前掲の写真で兵士たちがつかっていたシングルバーナーのストーブです。制式名称を「Stove, Cooking, Gasoline, M1941, One-Burner」といいます。連邦ストックナンバーは「65-H-2880」です。俗に“GIストーブ”と呼ばれるのは、このストーブを開発したコールマン社が同型の民生品を販売する際に“G.I. pocket stove”として売り出したことに由来します。

米軍に納入されたM1941のもととなったコールマン社のモデル「520」の取扱説明書です。戦後は若干の仕様変更がされ、モデル「530」として市販されています。

戦後に出版された米軍需品部(QMC)の公刊戦史には、もともとガソリンシングルバーナーは、寒地で行動する山岳部隊向けに開発がされたとあります。しかし、M1941(コールマン社モデル520)よりもさらに小型化の要求がなされ、翌年には改良型のM1942(コールマン社モデル523)が採用されました。

改良型のM1942です。M1941に比べると全高が低く、設置したときの安定性が向上しています。燃焼系統の基本構造はM1941とほぼ同様ですが、細かな改良がなされています。第二次世界大戦では、山岳部隊やジャングル戦部隊に優先配備されました。

M1942の採用にともない、M1941は代替品指定(Substitute Standard)がなされましたが、北アフリカに出動する戦車や装甲車の乗員向けに配備されると、戦地における温食供給の課題解決が評価されるようになり、1944年にはヨーロッパ戦線に展開する第一線の徒歩行軍歩兵すべてに追加配備されることになったわけです。

M1941の使い方と整備方法については、1944年に発行された技術教範「TM 10-400 Stoves, Ranges, Ovens and Cooking Outfits」で紹介されています。以下では、筆者の手許にある現物と教範の記述を参考に、構造の説明と実際の運用で注意すべき点などをみていきましょう。

M1941は、下部の燃料タンクに入れたガソリンと空気の混合気に点火することでストーブとしての役割を果たします。以下では作動方法とその仕組みを、イラストを参考に説明していきます。

燃料タンク①に入れたガソリンは、タンク内にあるニードルを伝ってバーナー部②へ供給されます。ポンプレバー③によるポンピングで空気をタンクに送り込むと、タンク内の内圧が高まり、ガソリンがニードル内を上昇します。ガソリンの供給量の調節は、バルブ④とワイヤーレバー⑤でおこないます。バルブを左に廻すと内管が開放され、ガソリンが供給されます。ワイヤーレバーは、クリーニングニードルと呼ばれる針を上下させるものです。ニードルの針が上がっているときはバーナー部への出口が塞がるので、ガソリンはバナー部に到達しません。逆にニードルの針を下げるとバーナー部への出口が開放され、ガソリンが到達し、点火が可能になります。

点火方法は次の通りです。技術教範に記載の内容をもとに現物のストーブをつかって説明します。

1.ポンプレバーを左に2回転させます。ポンプの穴を塞ぐように親指を添えて、25~35回ポンピングします。ポンプを押し込んだ後に親指で穴を塞いだまま、右に回転させて元の位置に戻し、しっかりとねじこみます(これでタンク内の内圧が保たれ、ガソリンがニードル内を上昇できるようになります)。

2.ワイヤーレバーを数回まわします。内部でニードルが上下することにより、バーナー部への出口に溜まる埃やゴミが除去され、点火が可能な状態になります。

3.ワイヤーレバーを下向きにして、バーナー部への出口を開放した状態で、バルブを左に1/4回転して、少量のガソリンが出るようにします。


4.マッチやライターの火をバーナー部へ近づけて点火します。最初は燃焼温度が低いオレンジ色の火が上がりますが、3~4分経過すると、燃焼温度が高い青色の火に変わります。

5.バルブを左に回し、ガソリンの供給量を増やしたうえで、ポンプレバーのポンピングによって炎が勢いよく燃えるまで空気を送り込みます。

6.炎の勢いが強い場合は、ワイヤーレバーを水平の位置に廻します。また、炎がちらつき始めたら、ワイヤーレバーをひねって内部のクリーニングニードルを上下させることで、バーナー部の出口に溜まる煤などが排除されます。

7.消火する場合は、バルブを右いっぱいに廻してガソリンの供給を停止します。火が消えたら、ワイヤーレバーを上にして、バーナー部への出口を塞ぎます。

※なお、キャンパーの間では、アルコールをつかって点火して予熱するプレヒートという方法が一般的なようですが、1944年発行の技術教範には記載がないため、本稿ではご紹介していません。

M1941には、予備部品と交換整備用のレンチが付属しています。予備部品は、金属の円筒状の入れ物のなかに、燃焼部の替え部品(ジェネレータ、クリーニングニードル)と消耗品(グラファイトパッキン、スクリーン)が収納されています。予備部品とレンチは、ストーブのホルダー部の内側に取り付けられるようになっています。

第一線での整備は予備部品とレンチでできる範囲に限られます。この範囲をこえた分解整備は、後方の需品部へ送致することになります。現代においても、多くの場合はオーバーホールにまで至ることなく、このレンチをつかう範囲で消耗品のパーツを交換すれば、正常に動作することが多いでしょう。

筆者の手許に不動の状態できた2台のM1941ストーブは、ともに消耗品を交換するだけで点火が可能になりました。この写真は、燃料バルブを外して、劣化したグラファイトパッキンを交換するときに撮影したものです。下のバルブには劣化して砕けたパッキンがついています。このようになると、バルブの内管にパッキンの残部が固着し、復旧に手間がかかります。消耗品は定期的に交換することが望ましいでしょう。消耗品は国内でも安価に入手することが可能です。

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