古くて新しい爆薬のはなし

第二次世界大戦では様々な新型爆薬が登場しました。そのうちのいくつかは、戦後半世紀以上も現役でつかわれ続けています。

 火薬は古代中国で発明されて以来、様々な改良がなされてきました。火薬をもとに、材料や混合比をかえることで、爆発反応の伝播速度が音速よりも速く、それによって生じた衝撃波によって対象物へ物理的な破壊効果を生む爆薬を生みました。

 火薬と爆薬は、ともに爆発によって急速に火炎とガスを生成しますが、伝播速度の違いによる衝撃波の有無が役割をわけています。火薬は鉄砲の弾につかうもの、爆薬は爆弾につかうもの、という理解は正しいです。火薬は推進力を生みますが、音速以下なので爆発による衝撃波は生じさせません(火薬の推進力で飛ぶ弾丸は音速以上なので衝撃波を生じさせます)。いっぽうで爆薬は衝撃波を生みます。圧力と密度が急速に高まり、それが音速以上の速度で伝播することで空気を圧縮し、圧力を生じさせるからです。

 二度の世界大戦は、兵器を通じて様々な技術分野にイノベーションともいえる大きな変化をもたらしました。爆薬も同様です。第二次世界大戦を迎える前の米軍では、工兵が扱う爆薬は、主にトリニトロトルエン(Trinitrotoluene : TNT)、硝酸でんぷん(Nitro-starch)、硝酸アンモニウム(Ammonium nitrate)、各種のダイナマイトでした。これらはいずれも採掘や土木工事につかう民生品を軍用に転用したものです。

 第二次世界大戦が勃発すると、軍用爆薬の開発が加速しました。より安全で、より破壊効果が高く、生産性の良い新型爆薬が次々と登場しました。米軍において地上部隊が破壊作業につかうもののうち、1943年以降に開発された新型爆薬はおおむね次の通りです。

Blocks, Demolition, Chain, M1

8本を導爆線で結んだ連鎖爆薬。主剤はテトリトール。TNTと比較すると質量比で約1.2倍の破壊力がある。1本あたりTNT換算で3ポンド分、8本で24ポンド分の破壊力がある。

Block, Demolition, M2

連鎖爆薬を個包装でつかえるようにしたもの。主剤はテトリトール。1本あたりの破壊力はM1と同じ。前後に火工品を螺着可能なソケットを備えることで起爆準備作業を簡易化している。

Block, Demolition, M3

C-1からC-4まで改良がおこなわれたプラスチック爆薬。可塑性に優れ、破壊に必要な適量にわけることができる。M1、M2とサイズは同じ。TNTと比較すると質量比で約1.25~1.34倍の破壊力がある。

Block, Demolition, M4

M3よりも小さい個包装。主剤はコンポジション。TNTと比較すると質量比で約1.25~1.34倍の破壊力があり、TNTハーフポンド缶にちかい使い方ができる。

 また、新兵器として採用され、炸薬は従来のものをつかったものには次のものがあります。

Bahgalore Torepedo, M1/M1A1

筒状爆薬。連結して敵前まで進出し、鉄条網に投入して破壊する。炸薬量は1本あたり約9.5ポンド。主剤はアマトールとTNT。スリーブで数本を連結することができる。

Charge, Shaped, M1/M2/M3

炸薬缶の底部を円錐形にすることで、モンロー効果によってコンクリートや鉄板を破壊する。M1/M2はおおよそ炸薬量が10ポンド、M3は大型で炸薬量が30ポンドある。主剤はM1がTNT、M2/M3がペントライト。

 フォートベニング歩兵学校で1944年7月におこなわれた破壊教習のときに撮影された写真です。新旧爆薬と火工品がならんでいます。写真の左から、TNTハーフポンド缶、硝酸でんぷん1ポンド爆薬、M3デモリッションブロック(C-2)、M2デモリッションブロック(テトリトール)、M1連鎖爆薬(テトリトール)、ダイナマイト2種、導爆線です。

この写真にある爆薬のうち、TNTハーフポンド缶以外のものは過去に外観を再現しています。→「WWII 米軍 爆薬類の再現」

 このときに登場した新型爆薬や新兵器は、同時に起爆のための火工品(信管や雷管など)や取り扱いの方法についても刷新しました。それらは戦後半世紀以上も継続されているものも少なくありません。古くて新しい化学の結実は、やはり完成度は高かったわけです。

 ところで、これらの新型爆薬は、実際にどれくらい戦地にお目見えしたのでしょうか?

 工兵の破壊器材は「T/BA 5」(TBAは“Table of Basic Allowance”=基本支給品目表)で定められています。1942年1月発行の爆薬破壊野戦教範(FM 5-25)に掲載の同表では、爆薬は“Rectangular Block”(長方形)とあるだけで主剤の表記がありませんが、これはTNTを意味します。

 1942年時点での工兵破壊器材です。分隊が装備する“Squad Set”と呼ばれるもので、非電気式・電気式両方の起爆が可能な器材と爆薬及び火工品がセットになっています。工兵分隊の爆薬定数は50ポンド(約22.7kg)です。さきに写真で掲載した黄色のTNTハーフポンド缶は100缶です。木箱1梱包分です。

 爆薬破壊野戦教範は1944年2月に発行されており、この版で初めて新型爆薬が登場します。同版には基本支給品目表が掲載されていませんが、別の技術教範で1944年12月に発行された補遺では、従来のTNTに加えて新型爆薬であるテトリトール爆薬(M2)が追加されています。また、1945年5月発行の爆薬破壊野戦教範に掲載の装備表では、コンポジション爆薬(M3)も追加されています。

 おそらく、テトリトール爆薬やコンポジション爆薬は、1944年から製造と支給が開始されたものの、戦地では従来のTNTが在庫として大量にあったと思われます。また、新型爆薬は、従来の爆薬と取り扱いの方法そのものは、ほとんどかわりませんが、それでも部内教育は必要ですから、実際に戦地で破壊作業につかわれるようになったのは、戦争も終わりに近づいてきた1945年に入ってからではないかと思います。

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