難儀なやつ。M1カービン。

エアガンもガスガンもモデルガンもたくさんある。なんでWW2モデルはないんかね?

 M1カービン。米軍の制式名称は「CARBINE, CAL. .30, M1」です。WW2米軍では“カーバイン”と発音してましたが、戦後は“カービン”と発音されるようになったそうです。本稿では、戦後の世間にあわせて“カービン”と書きます(ごめん)。

 M1カービンは、1941年に開発され、その年に米軍で採用されました。採用の目的は、後方の警備でつかう軽小銃としての役割だそうです。すぐに戦争の本格化をむかえ、大量生産されます。同時に改良もおこなわれ、1945年時点では、モデルとしてM1、M1A1、M1A2、M1A3が存在したほか、派生としてフルオート射撃が可能なM2、赤外線暗視眼鏡を備えた試験型T3(後のM3)もうまれています。

 M1カービンは、部品の改良がおこなわれており、改良部品の組み合わせによるバリエーションは多岐にわたります。第二次世界大戦当時のM1カービンのバリエーションについては、洋書で専門書が刊行されているほか(→Amazon.co.jp リンク)、日本語で読めるインターネット上の情報でサープラスオフィス万両さんの解説ページがあります。わたし自身も、この万両さんのページを何度も拝見して、しばらく試行錯誤をしたうちの一人です。

 技術公報に掲載されているM1カービンの写真です。1941年に採用された当初の外観です。WW2米軍の再現を目指すうえで最も理想的なモデルがこれです。ただ、これはナイものねだりです。米国の実銃市場においても滅多に見かけることはありません。なぜなら、改良部品の交換を通じて、このような古いバリエーションは淘汰されたからです。兵站からすれば欠陥品とまではいわなくても、新しい改良部品が存在する以上は、摩耗などでの整備を機会に更新していくことが求められます。

 戦後の1950年代に発行された技術教範には、旧型品を改修する方法が紹介されています。上から順に、旧型の木製銃床(ストック)を切削する指示、着剣具付きの吊り環(スイベル)を使用する旨の指示、木製の銃身支持具(ハンド・ガード・アッセンブリ)の新旧についての紹介です。

 同じく1950年代の技術教範に示す改修手順です。照門(リアサイト)をダイヤル式で調整可能な新型に交換する手順です。新型を取り付けるには、可倒切替式の旧型を外したあとにポンチで銃身に窪みをつけたうえで、照門は切削してすり合わせする必要があったようです。

 これらの改良部品による改修は、いずれも1945年以前から進められていましたが、とりわけ改修が進んだのは、5年後に勃発した朝鮮戦争だったと思います。

 株式会社タナカが製造販売するM1カービンのモデルガンです。近年の玩具業界におけるM1カービンのモデル化として、おそらく最も新しく、完成度の高い製品であると思います。関心の薄い方にとっては、先ほどの初期型と大差なく感じるかもしれません。しかし、WW2米軍の再現を目指す人にとっては、両者には天と地ほどの差があります。このモデルは戦後の1950年代以降を再現しています。

 スペインの装飾具メーカーDENIXが製造販売するM1カービンのデコガンです。現時点で入手可能なM1カービンの玩具で、外観上、もっとも大戦型に近い再現がこの製品になります。筆者は現物を手にしていないので、写真からの判断になりますが、安全子(セーフティ)が戦後のつまみのあるタイプであること、また、デコガンゆえに実物にはないネジが追加されているなどのほかは、よく大戦型を再現できていると思います。モデルガンが実物の構造を模しているのにたいし、デコガンは構造そのものが違います。しかし、外観のみであれば、かなりの再現度です。

 国内において、M1カービンは、半世紀も前から玩具の世界でポピュラーなモデルでした。エアガン、ガスガン、モデルガン、デコガン。すべてのジャンルでM1カービンがモデルアップされています。木製銃床の小銃でもっとも多く製品化されたモデルかもしれません。ところが、ここに掲載したタナカのモデルガン、DENIXのデコガンのように、第二次世界大戦期のモデルを正確に再現したものは皆無なのが実情です(この状況はMk2手榴弾と似ています)。WW2米軍のリエナクトメントを目指すうえで、正確に再現された大戦型M1カービンが欲しいのに、その選択肢が実質的にはないに等しいのです。

 前述の通り、WW2モデルのバリエーションについては先達の素晴らしい知見が豊富ですので、ここで改めて紹介するのはナンセンス…というよりも、私には語る資格なしです。そこで本稿では、大戦型M1カービンの再現について自身の経験をご紹介するとともに、そもそもWW2米軍歩兵にとってM1カービンはどんな位置づけだったのか?をご紹介したいと思います。

 M1カービンの大戦型モデルを手にするため、まずはモデルガンを入手しました。リエナクトメントでつかうには弾が出る必要はないからです。最初は中田商店が過去に販売したモデルガンを入手しました。これは強化樹脂の銃身に実物の放出品銃床がついたものです。しかし、樹脂の質感が満足できず、銃身が金属製のCMC製を入手しました。もちろん、モデルとしては戦後型です。

 戦後モデルを大戦型…否、大戦風にするための“三種の神器”ともいえる部品です。左から吊り環(スイベル)、照門(リアサイト)、安全子(セーフティ)です。吊り環は、着剣具がなく、スリング通しの環が平らなものです。照門は可倒切替式、安全子は俗に“プッシュタイプ”と呼ばれるものです。いずれも初期型を再現したスチール製のレプリカで、実銃にも取り付け可能なものです。

 ところが、入手したCMC製のモデルガンに取り付けようとしたところ、吊り環と安全子は取り付け可能なものの、どうしても照門が合いません。そもそもレシーバ側の照門を取り付ける構造が実物と異なるのです。

 CMC製のモデルガンです。かなり初期の頃の製品です。照門(リアサイト)を取り付ける構造が異なります。実銃はレシーバ側が凹形状ですが、このCMC製は凸形状です。取り付けるには、レシーバを切削したうえで、さらに盛り上がりが低いために肉盛りもしなくてはいけません。仮に執念で照門の取り付けをクリアしたとしても、レシーバとボルト形状などの相違点は残ります。ここの写真にあるように、遊底と連動して装桿が動く際のレールの役割を果たす溝形状も実銃とは異なります。“三種の神器”だけでは、すべてを解消することはできないのです。この段階でギブアップしました。

 DENIXのデコガンについては、実物と構造がかなり違うこと、また、外観の改修可能性についても不明であったため見送りました。残された最後の選択肢は…無可動銃でした。

 写真のM1カービンは、シカゴレジメンタルスで購入し、必要な修正をおこなって大戦型にしたものです。CMC製モデルガンの改修を断念してからそれほど待たずに、薬室が閉鎖されている、俗にいう“旧加工”の商品が入荷し、運良く手に入れることができました。

 この個体も購入当初は戦後型でした。しかしレシーバとボルトが初期型であったため、吊り環、照門、安全子を“三種の神器”に交換することで、念願の大戦型とすることができました。

 着剣具を取り外して吊り環を交換した後の様子です。銃身が日焼け跡のようになっているのは、戦後に銃身表面を“パーカーライズド”と呼ばれるリン酸塩による被膜の再処理をした際に、着剣具がついたままの状態でおこなったからでしょう。

 照門と安全子を交換して、取り外した戦後タイプの部品と比較した写真です。照門はダイヤル調整式のものを取り外し、初期型の可倒切替式を取り付けています。安全子は、戦後型のつまみがついたタイプを外して、“プッシュタイプ”を取り付けています。技術教範には、これらの交換作業に専用工具をつかうように指示があります。しかし、射撃を前提とした精度を求める必要がない無可動銃の改修ならば、ポンチとゴムハンマーのみで作業が可能です。

 2020年9月20日に千葉県で開催されたイベントで撮影していただいた写真です。手前がBCoメンバーが持参したM1カービンの無可動銃、木箱の上に置いている銃が筆者のコレクションです。偶然ですが、同じウィンチェスター製で、シリアルナンバーも近いものでした。手前の銃は、最初期ではないものの、木製銃床が“ハイウッド”と呼ばれる旧型ですから、より貴重なものです。両方ともに、もともと戦後改修がされていたものを“三種の神器”で修正しています。

 WW2米軍のリエナクトメントを目指すBCoのメンバー2人がともに無可動銃、それも同じ修正を施したものを手にしていたことは、大戦型のM1カービンを求めると、現状では、無可動銃がもっとも現実的な選択肢にならざるを得ないことを示しています。これは、正直に言って、とても残念なことだと思います。国内メーカーが製造販売する玩具銃はハイクオリティゆえに、部品の組み替えで大戦型へ対応できることが、もっとも望ましいからです。

 ところで、WW2米軍の歩兵部隊において、M1カービンは、どのような位置づけだったのでしょうか?

 1944年2月制定の編成装備表(TO/E)を参照すると、陸軍の歩兵大隊ライフル中隊の武器定数のうち、小銃はM1ライフルが143丁にたいして、M1カービンは28丁です。丁数としてはけして少なくはありません。では、どのような職種の兵士がM1カービンを携行したのでしょうか?ライフル中隊でM1カービンの携行が定められている職種は次の通りです(括弧内は携行人数を示します)。

  • 中隊本部:中隊長(1)、副官(1)、先任下士官(1)、糧食担当下士官(1)、補給担当下士官(1)、ラッパ手(1)、伝令(3)
  • 火器小隊:小隊長(1)、本部付下士官(1)、伝令(2)、迫撃砲分隊長(1)、迫撃砲弾薬手(6)、機関銃分隊長(1)、機関銃弾薬手(4)
  • 小銃小隊:小隊長(1) ※ライフル中隊の小銃小隊は3個編成です。

 このように、M1カービンの携行が指定されている職種は、中隊本部と火器小隊が中心です。ライフル中隊に3個編成される小銃小隊でM1カービンを携行するのは小隊長のみです。

 筆者が大戦型のM1カービンにこだわるのは火器小隊の再現が目標だからです。しかし、ライフル中隊の主力である小銃小隊が再現の対象であるならば、そして小隊長ではなく分隊長を含めた下士官兵卒の再現が目標であるならば、こだわるべきはM1カービンではなく、M1ライフルです。

 なお、陸軍の空挺部隊(Parachute Rifle Company)や機械化歩兵部隊(Armored Infantry Rifle Company)も、M1カービンを携行する職種は歩兵のライフル中隊とほぼ同様です。レンジャー部隊(Ranger Company)は、1945年8月まで、規定上はM1カービンを1丁も装備しません。

 大戦型のM1カービンの再現は、現状では相当な労力を要します。まずはご自身が望む再現の目標を吟味したうえで、その必要性について検討することがよいと思います。

DENIXが製造販売するM1カービンは、外観上の再現では、大戦型にもっとも近い製品です。第二次世界大戦の再現を目指すならば、国内で入手可能な玩具銃のなかでは唯一の選択肢といってよいと思います。商品コードは「1122」です。ご購入はこちらから(→Amazon.co.jp リンク)。

 最後に、M1カービンの属品です。M1カービンは、銃床の穴に油缶を入れて、そこにスリングを通して吊り帯とします。WW2で採用されたスリングは、この教範のイラストにあるように、コットン製の帯の末端に締め金具がついたものです。この締め金具は俗に“Cチップ”と呼ばれています。これに対して戦後型は、締め金具の形状が三方から締めるのではなく、一方から咬み締める形の“Dチップ”と呼ばれているものです。国内でモデル化されているM1カービンの玩具銃に付属するスリングは、すべて戦後型の“Dチップ”を再現しています。「戦後型」という点では、整合性がとれています。

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