分隊向けの偽装網

偽装網は、車両や野砲の対空隠蔽用だけではありません。WW2米軍歩兵にも支給がありました。機関銃と迫撃砲の隠蔽用です。車両用よりも小さめです。

 擬装教範にある機関銃向けの偽装網の使用例です。フラットトップという基本の張り方です。平地で機関銃座の四方に約60センチの支柱を立て、偽装網を張ります。張り綱はテントのロープをつかえとあります。

 WW2米軍ライフル中隊には、火器小隊の軽機関銃と迫撃砲チームに、それぞれ隠蔽用の偽装網が交付されていました。軽機関銃が2分隊、迫撃砲が3分隊なので、偽装網の定数は5です。

 偽装網は、コットンまたは麻で編まれた編み目が2インチ(約5センチ)で15フィート(約4.57メートル)四方のものです。消耗品なので、WW2当時の現存品は滅多にありません。同様の偽装網で大型のものを求める海外の軍用車両のコレクターは、コットン製の中古漁網を流用して再現しています。

 自分も数年にわたり探しつつ、中古漁網から作成するほどの気力はなく。あるとき運良く国内で戦後の同型品を入手できました。在日米軍の放出品です。網の間に引っ掛かっているように見るのは、偽装用の麻テープです。取り切れなかったのか、少しだけ付いてました。

 偽装網は、草木を模した布きれを編み目に結び、偽装効果を高めます。偽装教範に掲載されている、麻テープをつかった偽装パターンです。左上から時計回りに、蛇行、U字、蝶結び、あて布です。当時の写真で最もよく目にする偽装パターンは左上の蛇行かと思います。 偽装パターンは、中心を密に、外側に向かって粗につくれとあります。

  銃後で偽装網に偽装パターンを編み込んでいる様子です。偽装教範には、後述のように、四季と環境に応じた配色比率と、どれくらいの麻テープと作業時間が必要かの見積もりがあります。支給された素の網に、ロール状の麻テープをつかい、偽装パターンを現地でつくることが想定され、実際にそのように運用もされていたでしょうが、この写真のように、銃後であらかじめ偽装パターンが編み込まれたものが戦地に送られた例もあったようです。

 偽装教範に掲載されている表です。上段が配色比率、下段が偽装パターンの作業見積もりを示しています。

 配色比率は、夏・冬(雪以外)・砂漠の三種類が掲載されています。夏は緑系の比率が高く、冬は茶系の比率が高くなっています。砂漠は淡茶系です。季節や環境の変化に応じて配色は変更することが必要ですが、 塗料をつかうことも認められています。

 偽装パターンの作業見積もりには、必要な麻テープの長さとロール本数、一人の兵士が作業にあたったときの作業時間(人足)が掲載されています。1パターンに要する麻テープが60インチ(約1.5メートル)とあるのは蛇行パターンを想定していると思われます。

 ライフル中隊火器小隊用の偽装網は、もっとも小さい15フィート四方のものです。パターン数は150~175個、必要な麻テープの長さはおよそ250メートルほどでロール2~3本分、作業時間は3時間とあります。

 パターン数が少し多い気がします。かなり密になりそうです。ロールは沖縄の放出品業者から70年代のものを取り寄せることにしました。実際に試してみます。

 

先頭に戻る