映画『プライベートライアン』の迫撃砲弾を手で投げるのは嘘じゃない。

けっこう気になるシーンの真偽。前にTwitterでも投稿しましたが…ちゃんとまとめます。

 映画『プライベートライアン』の終盤で、60mm迫撃砲弾を手投げするシーン。ネット検索すると、けっこう気になる人が多いようです。これ、ウソじゃありません。実際に欧州と太平洋の戦場で同様の方法で砲弾を手投げして敵兵を倒し、受勲した兵士もいます。

 これを理解するには、迫撃砲弾の構造と起爆(発射)のメカニズムを知る必要があります。特にポイントとなるのが尾翼の推進薬と信管の作動方式です。以下に見ていきましょう。

  鉄砲や大砲の弾はおおまかにいうと弾頭と薬莢から出来ていて、撃つと弾頭だけが飛んでいき、薬莢は残ります(薬莢は排出して次弾の装填に備えます)。これに対して迫撃砲はシュポンと砲弾ぜんぶが飛び出していきます。多くの皆さんが思っているイメージ通りです。

 このイラスト図は、映画『プライベートライアン』で主人公らが手投げした迫撃砲弾(M49A2榴弾)の構造を示したものです。おおまかにいって、上から信管(起爆薬が詰まっている)、弾体(炸薬が詰まっている)、尾翼(推進薬が詰まっている&距離に応じた増分薬)からなっています。このイラスト図では、信管【A】、起爆薬【B】、弾体【D】、炸薬【E】、尾翼【H】、推進薬【I】、増分薬【G】です。この砲弾の発射から爆発にいたるメカニズムは次の通りです。

  1. 砲身に砲弾を入れる。
  2. 砲弾は自重で砲身内を落下し、砲身の底にある撃針に砲弾の尾部が刺さり、尾部の雷管が起爆することで尾翼の推進薬【H】に点火する。
  3. 尾翼の推進薬(と距離に応じて増分薬【G】)が燃焼することで砲弾が飛んでいく。この時点で信管の安全栓が外れて作動可能状態となる。
  4. 着地の衝撃で信管が作動し、起爆薬【B】を介して弾体の炸薬【E】に点火(爆轟=ばくごうと言います)して砲弾が爆発する。

 映画『プライベートライアン』のシーンを見てみましょう。迫撃砲の底板にガツンっと砲弾を打ち付けて投げています。この動作は、前述の2と3に該当します。通常であれば推進薬【H】に点火してしまいますが…

 これは砲弾の尾翼と使用済みの推進薬です。推進薬はこのように赤・黄のツートンもしくは赤一色の紙製のカートリッジです(穴が空いているのは使用済みで尾翼の穴の部分だけ燃焼して砲弾が飛ぶためのガスを放出しているから)。もし尾翼内に推進薬が入っていれば、赤・黄または赤の色が尾翼の穴から見えますが、映画のシーンでそれらは見えません。また、射距離に応じた増分も付いていません。砲弾が飛ぶのに必要な推進薬と増分は予め取り除かれていたことを示しています。矛盾はありません。

 次に、砲弾を投げて爆発させるには、信管を作動させる必要があります。信管の安全栓が解除されて作動可能状態になる仕組みは多様ですが、今回のテーマであるM52着発信管では、砲弾を砲身に入れる前に、信管にぐるりと付いている安全ワイヤーを外すことが必要です。

 映画では、主人公のライアンが底板に砲弾をたたきつける前に、安全ワイヤーを外すシーンがこのようにしっかりと描写されています。

 ただ、安全ワイヤーを外しても信管はそのままでは作動状態になりません。点火した推進薬のガス圧で砲弾が回転する慣性の力で信管内部の金具が回転し、砲弾が砲身を飛び出した時に安全栓が解除される仕組みです。映画のシーンのように、砲弾を底板に強く打ち付けて、その衝撃で安全栓が解除されるかは…ちょっとわかりません。ただ、少なくとも信管が作動状態になるためのステップとして、映画のシーンでおかしなところはないのです。

 なお、迫撃砲弾の殺傷半径を考えると、平地で20メートル以上は離れた場所に着地できるように投げる必要があります。60ミリ砲弾の重さは約1.34kgで、これは当時の手榴弾(Mk2)2個分以上はあります。なかなか投げるのも一苦労ですが、映画で主人公たちは瓦礫の山に囲まれていますので、安全面でも十分あり得る設定ではあることがうかがえます。

 このように、映画『プライベートライアン』の砲弾手投げシーンは、迫撃砲のメカニズムや設定された状況からも、不自然なところはなく、しっかりとした考証のうえで撮影されていることがうかがえます。

映画『プライベートライアン』はアマゾンプライムビデオにラインナップされています。プライム会員であれば無料でご覧いただけます(2019年5月3日現在)。迫撃砲弾の手投げシーンを改めてチェックしてみては如何でしょう?プライム年会費は手頃ですので、この機会にぜひ。

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