こりゃダメだ…にしないコリメータのつかいかた。

よく出来てます。使い方も難しくありません。

第二次世界大戦のアメリカ軍で採用された60ミリ・81ミリ迫撃砲の照準器、コリメータ(M4)。インターネットで調べると、収差補正やら平行光やらと難しいことが書かれています。しかし、そこはアメリカン。教範には誰でも簡単につかえるように解説があります。以下では、1942年発行の60ミリ迫撃砲教範(FM 23-85)に準拠して、砲の設置から照準のとり方、射撃準備までを順を追って説明します。曲射の原理は共通しているので(あくまで基本操作の一部ですが)他国の運用の参考にもなるかと思います。

最初に砲の展開地を決めます。上空がひらけて射界がとれ、地盤が固く平らなところが望ましい。この写真のような場所ですね!…まあ、前線のこんなところで砲を展開できるのは稀というか自◯行為だったりしますので、通常は手斧で樹枝を払って射界を拓き、円匙で整地します。

置き場所を決めたら射向(砲弾を打ち込む敵が居る方角ですね)をコンパスで計測し、砲から20ヤード(=約18メートル)離れた場所に標準杭を立てます。WW2米軍には歩兵迫撃砲向けの制式標桿がなかったので、砲弾梱包のロッドをつかうことが多かったようです(写真の鉄棒はちょっと細すぎるので真似しないでね)。

砲を展開します。二脚を開き、左脚のナットを調整して地面に対して砲架を平行にします。砲身は砲架の中心にくるようにクランクを廻してトラバースバーを動かします。二脚の足先は床板から18インチ(約46センチ)の位置にくるようにします。46センチ。どう測るのでしょうか?慣れですかね?…いえ、清掃棒を床板の後端にあわせると、ちょうど棒の先端が脚の置き位置になるんです(これ、なぜか教範には記載がない裏技です)。

注:白線と標準杭は合成です。

コリメータをつかって砲の向きを標準杭に合わせます。コリメータ(M4)には上下に2つの照準があります。下は鉄砲と同じオープンタイプ。山型の照門に照星となるワイヤを合わせます。上はレンズタイプの照準で黒背景に細い白線が見えます。これが収差補正やら平行光といったやつです。少しでも斜めから覗くと白線が消えてしまって見えません。ちゃんと正面から見ないといけません。そうです。この上のレンズの白線と、下のワイヤ、照門の3つが合う位置が砲の射向になります。

そして、このコリメータの照準線と、前方20ヤード先に立てた標準杭がぴったり合うように、二脚の位置を調整します。これで射向の「標準」が確定します。左右への弾着の修整や敵情に応じた射向の変更時には、コリメータのダイヤルを廻すだけで、コリメータの照準と標準杭を目安に、射向をかえることができるわけです。これがコリメータのつかい方で最も(基本的で)大事なことです。

具体的に説明すると、例えば「左40ミル(約0.67度)」ならば「L」の矢印方向にダイヤルを40動かすと、コリメータの照門が反対の右に40動きます。最初に標準をとったのと同じ要領でコリメータの上下の線と前方の標準杭が合うようにすれば、射向を正確に左40ミル変向することが可能なわけです。コリメータの使い方でいちばん重要なのがこれです。意外と簡単でしょう?

射向の標準がとれたので今度は水平です。コリメータには気泡水準器が2個ついています。水平の水準器は正面に、仰角の水準器は側面についています。左脚の下側ナットを廻して、正面の水準器の中心に気泡がくれば、標準杭に対して砲口が直線かつ水平になったことになります。以上で砲の設置が完了です。

射撃準備に入ります。砲弾はファイバコンテナから取り出して砲側に用意しますが、地面に置いてゴミがつくと事故につながるので地面にじか置きはしません。敷物?そんなものは装備品にないからアモバッグの上に置きましょう。射撃命令は、分隊長が射向・射距離・射撃数を伝えて、砲手と助手が射表をもとに砲を操作します。

例えば「Zero, Stake, 800, One round」なら、砲向はそのまま(標準杭に合わせたまま)で、射表を見て、射距離800ヤード(約732メートル)に対応する仰角と増分にあわせます。戦時の資源節約で採用されたベークライト信管のついた榴弾(H.E.,M49A2 with Fuze, P.D.,M52B1)の場合、射距離800ヤードに対応する仰角は69.5度で、増分(装薬)は2です。

まずは仰角。コリメータのダイヤルを廻して69.5度に合わせ、側面の気泡水準器を見ながら、二脚の真ん中についてるクランクを廻して砲身を上げて、気泡が中心にきたところで止めます。

増分は飛距離を延ばすもので、尾翼についた火薬パッケージです。増分は砲弾に4つ付いてるので、2つを除去します。

信管のセーフティワイヤを外して準備。分隊長の「Fire!」の号令に合わせて砲身に落として発射!ちゃんと800ヤード先に着弾する、はず。

射撃命令が「Left 40, 800, One round」のときは、先の説明のように左40ミルにコリメータのダイヤルを廻したあと、コリメータの上下の照準線が標準杭に合うようにトレバースバーのクランクを廻して射向を設定すればいい。けっこう簡単でしょ?

なお、コリメータ(M4)は、左右の偏向が最大150ミル(約8.5度)なので、標準杭だけだと射界は17度未満しか対応できません。それ以上が予想される場合は標準杭を立てた後に左右へ杭(標桿)を追加します。例えば、射界17度で先ほどの射距離800ヤードでの最大幅は240メートルほどにしかなりません。一個中隊の防衛線はおよそ約500メートル程度ですから、60ミリ迫撃砲で標準杭をつかう運用が主として防御態勢時であることを考慮すると、追加の杭を植立し、36度の射界は確保することが必要でしょう。

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